表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/171

クリスマスまでの準備2

 圭吾さんと司先生が帰って来たのは、夜中の12時過ぎだった。


 大輔くんは座布団を枕に眠っていて、巧さんと悟くんとわたしはトランプの真っ最中だった。

 圭吾さんが私の横にひざまずいた。

 わたしはいつものように抱きつこうとして、途中で手が止まった。


「どうした?」

「どこ怪我したの?」

「左肘の少し上だよ」

 わたしは、圭吾さんの右側からそっと抱きしめた。

「お帰りなさい」

「ただいま。待たせちゃったね――何してたの?」

「七並べ。面白いのよ」

「七並べ? またずいぶん古風な遊びだな」

「しづ姫はやった事ないらしいよ」

 悟くんが言う。

「たぶんボードゲームも」


 圭吾さんが悟くんに向かってうなずいた。


 何?


「やっぱり、今度『お泊り会』しようよ。僕も入れてさ」

 悟くんがわたしに言った。

「なぁに? 急に」

 わたしが訊くと、

「人生の楽しみを逃してはいけないという話ですよ」

 と、司先生が言った。

「さて、大輔を起こさなくては」

「ここに泊まらせるか? どうせ学校も休みだろう」

 圭吾さんが言った。

「じゃあ僕も泊まるよ」

 と、悟くん。

「俺は帰る」

 巧さんはそう言った。


 そのままその部屋に布団を二つ敷き、司先生と巧さんが大輔くんの頭と足を持って布団の上に移した。

 大輔くんはピクリともしないで眠っている。

「よっぽど疲れたんだな」

 巧さんが眠っている大輔くんの鼻をつまんだ。

 そんな光景を見ていると何だか切なくなって、わたしは圭吾さんの腕に自分の手を絡ませた。

「さて、志鶴も疲れたみたいだし、お開きにしようか」

 まるでお楽しみ会でも開催していたかのように、圭吾さんがそう言った。



 いつものように圭吾さんの部屋に行ったけれど、どうしても圭吾さんの怪我が気になる。

「ねえ、腕痛い?」

 わたしは心配になって言った。

「まだ麻酔が効いてるから平気だよ」

「でも、別々に寝た方がよくない?」

 圭吾さんの表情が曇った。

「一緒じゃないと眠れない」

「ホントに? いつもそう言うけど、わたしが来る前はどうしてたの?」

「いつでも睡眠不足さ。家を継いでから、ろくに眠れた試しがない」

 寝不足じゃ、いつも『不機嫌』って言われても仕方がないわね。

「志鶴が右側に寝れば大丈夫だよ。元々たいした怪我じゃないし」

 圭吾さんは有無を言わさずわたしをベッドに入れて、明かりを消した。

 わたしは少しためらったけど、優しく『おいで』と言われて、圭吾さんの腕の中に納まった。

「お仕事は上手くいったの?」

「ああ。少しばかりやりすぎたけど」

「やりすぎた?」

「あの研究所が、遺伝子操作で自然界では有り得ない生命を造り出しているとしたら、羽竜の土地でそれをやっているとしたら、僕らはそれを看過できない――それが僕と司が最初に出した結論だ。侵入して確かめて、それに関するデーターと書類を消すだけのつもりだったんだ」

 圭吾さんはわたしの髪を撫でた。

「実際行ってみたら、実験動物が何匹もいたよ。僕は……僕は、無性に腹が立った。おまけにデーターを消してる最中に、大輔が防犯シャッターに挟まれそうになって、怒り心頭さ」

「大輔くんに怒ったんじゃないでしょ?」

「もちろん。大輔は一族の者だし、守るのは僕の勤めだ。僕の怒りはあの研究所の全てに向けられた。気づいた時には――まあ、とんでもない状況になっていて」

 圭吾さんはくくっと笑った。

「今考えたら笑えるな。その状況をごまかすために、巧が水道管を破裂させて、僕等はそのまま逃げて来たんだ」

「圭吾さんが怪我をするような状況じゃ、わたしは笑えない」

 わたしはむっつりとして言った。

「たいした怪我じゃないって言ったろ?」

「うん。でも心配したの」

「ゴメン。心配するのは分かっていたよ」

「わたし泣かないで、ちゃんと待ってた」

「そうだね」


 でもあの時、泣きたかった。子供みたいに泣きわめきたかった。


「もう泣いてもいいよ」


 なんて事言うのよ。圭吾さんのバカ。


 ずっと我慢してた気持ちのたがが緩んだ。

 わたしは嗚咽をこらえながら、圭吾さんの胸で涙を流した。圭吾さんはずっと静かな声で謝りながら、わたしの髪を撫でていた。


「志鶴」

「なぁに?」

 わたしは鼻をグスグスさせながら答えた。

「僕が兄貴でいる方が幸せかい?」

「嫌よ。他の女の人に取られるもの」

 圭吾さんが笑うのが分かった。

「さっき、大輔が羨ましかったんだろう?」

「ちょっとだけ。でも、わたしには圭吾さんがいるから」

「そうだね」

 圭吾さんは手を伸ばしてサイドテーブルからティッシュを取ると、わたしの涙を拭いて鼻をかませた。

「僕と結婚しよう。お買い得だよ。僕と結婚すれば従兄弟が五人も付いて来る」

 わたしは笑って、圭吾さんの胸に顔をつけた。

「圭吾さん、大好き」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ