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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

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クリスマスまでの準備1

 悟くんは、わたしの前に座った。


「ちょっとだけ怪我をして、病院へ行った。司兄貴が付いてるから大丈夫だよ」

「に、に、入院する?」

「しないよ。帰りに怪我をしたまま龍道を通ったから傷口が開いたんだ。二、三針縫って、タクシーに乗って帰って来るよ」


 うなだれていた大輔くんが、悟くんの横に座ってわたしに頭を下げた。


「ごめんなさい。俺が悪いんだ」

「どうして?」

「そいつがドジ踏んで、シャッターに挟まれそうになったんだよ」

 巧さんが険しい口調で言った。

「圭吾はそいつを庇ったんだ」

「俺……本当は司にぃに来ちゃダメだって言われてたんだ。でも、悟にぃまで行くのに俺が行けないのが悔しくて、圭吾に無理矢理頼み込んで連れて行ってもらったんだ」

「ったく! 年が近いって言ったって、悟とお前じゃ力に差がありすぎだろ」


 大輔くんは鼻をグスグスさせながら、うつむいた。膝の上の両手が微かに震えている。


 落ち着きなさい、志鶴。あんたは三田志郎の娘でしょ? ジャーナリストの娘が、何かあったからって、いちいちうろたえちゃダメ。


「皆さんお疲れ様でした」

 わたしは言った。思ったよりも落ち着いた声が出た。

「何か飲みません? お茶か、コーヒーでも」

 巧さんがニッコリと笑った。

「お言葉に甘えて。コーヒー、貰おうかな」

「僕、手伝うよ」

 悟くんが腰を上げて、わたしについて来た。

「詳しい話、聞きたい?」

 廊下に出ると、悟くんが言った。

 わたしは首を横に振った。

「圭吾さんから聞く」


 たぶん、サラっと流されるだろうけど、その方がいい。圭吾さんが怪我をするような話を、冷静に聞けるとは思えない。


 台所に行くと、和子さんがいた。


「コーヒーを入れに来たの」

「六つ、でよろしいですか?」

「四つ。圭吾さんと司先生は少し遅くなるんですって」

 和子さんはうなずくと、戸棚からコーヒーカップを出した。

「あ、インスタントでいいよ」

 悟くんがそう言うと、和子さんはジロッと悟くんを見た。

「当家にはインスタントなどありません」


 本当の事を言うと、彩名さんのアトリエと圭吾さんの部屋にはインスタントコーヒーがあるけど。


「和子ばあちゃん、寝たら?」

 悟くんが陽気に言った。

「時間も遅いしさ、後は僕らがやるし」

「まだ、そこまでは老いぼれてはおりませんよ」

 和子さんはピシャリと言った。それから意外にも、ふふふっと笑った。

「相変わらずどうしようもない方ですね、悟様」

「でしょう?」

 悟くんはニヤリと笑うと、真っすぐ戸棚まで行ってごそごそと中を探った。

「ほら、見ーっけ!」


 悟くんの手にはインスタントコーヒーの瓶。


「えっ? どうして分かったの?」

 わたしは驚いて尋ねた。

「僕は羽竜一の器用貧乏なのさ」

 悟くんはカップにコーヒーの粉を入れながら言った。

「能力の種類は誰よりも多いし、強さも兄弟で一番。ただし意欲に欠ける。今まで一族のために役立とうなんて思った事もない。だから大輔は僕を軽く見る。僕に出来るなら、自分だって出来ると思ったんだろう。許してやって」

「わたしは、許すとか許さないとか言える立場じゃないわ」


 わたしがそう言うと、和子さんと悟くんは顔を見合わせた。


「そろそろ自分の立場に慣れた方がいいよ」

 悟くんが言った。

「結婚すれば、羽竜一族で圭吾の次に発言力があるのは君ってことになる」


 そうなの?


「ましてや君は、圭吾に対する影響力が大きい――少なくとも一族のみんなはそう思っている」

「いやね。買い被りすぎよ」


 わたしもミルクとお砂糖をトレイの上に並べた。


「悟くんだって言っていたじゃない。わたしはすぐ圭吾さんに騙されるって」

「そうだね」

 悟くんは微笑んだ。

「それでも圭吾が一番に耳を傾けるのは君の意見だよ」


 圭吾さんに必要とされたい。役に立ちたい。でも――


「今、すごい重しを乗せられた気分」

「だろうね」

「前に悟くんは、わたしがそこにいるだけでいいって言ったのに」


 わたしがぼやくと、悟くんは笑った。


「圭吾にとってはね。でも、僕ら他の者が君に期待していることは違う」

「どうしろって言うのよ」

 わたしは少しばかりふて腐れて言った。

「圭吾を幸せにしていて欲しい。あいつが怒ったら宥めて欲しい。迷ったら助言して欲しい」

「ハードル高いわよ」

「もう全部クリアしてるじゃないか。君は言わば龍神の巫女だ。僕らは、君を通して圭吾にとりなしてもうらおうとするだろう」


 難しすぎて分かんない……


「例えばさっきの大輔だ。君が許すと言えば、圭吾も許すだろう。君が許さないと言えば、圭吾は大輔を末席に追いやる――分かる?」

「言いたい事は分かった。でも、わたしが何も言わなくても圭吾さんはそんな事しないでしょ?」


 悟くんはカップにお湯を注いだ。


「たぶんね。でもそれは、しづ姫の目があるからだよ」



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