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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

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ひとり、この夜2

 生まれて初めて触ったウサギは、フワフワして、暖かくて、モゾモゾしてた。


「かわいい! 圭吾さん、すっごいフワフワなの!」

「毛皮だからね」

「もう! そういう言い方しないでよ」


 ウサギは鼻をヒクヒクと動かしていた。

 圭吾さんにねだれば、すぐに買ってもらえるのは分かっている。

 でも、ペットを飼う気にはなれない。

 いつかは死んでしまうものに愛情を注ぐのはつらいから。

 裏庭の龍たちは、餌付けをして馴らしてはいるけれど、基本的には野生だ。それに寿命も長い。


 わたしはもう一度ウサギを撫でると、柵の中に戻した。

 圭吾さんは何も言わない。

 ただ、代わりだとでも言うように、ぬいぐるみを買ってくれた。


 茶色の垂れ耳ウサギ。


「ラッピングしないで、首にリボンをつけてくれ。水色のがいいな」


 首輪のように水色のリボンをつけたウサギのぬいぐるみが、わたしの腕の中に落ちてきた。


「ありがとう」

 わたしは、圭吾さんの腕にしがみつくようにして言った。

「どういたしまして」

「羽竜?」

 声をかけられて、圭吾さんとわたしは振り返った。


 げっ! また常盤さんなの? 今日は女性連れかぁ。


「よくよく会うね」

 圭吾さんは苛立ち一つ見せずに言った。

「東京に戻らなくていいのかい? お父上はもう発ったのだろう?」

「研究所の案件を任されてね、移転を模索しているところさ」

「なるほど」


 常盤さんは、圭吾さんの腕にしがみついたままのわたしをジロジロと見た。


「今日も従妹を連れているのか」

「大切なだと言ったはずだ。そちらは妹さんか?」

「ああ。君が写真も見ないうちに断った縁談の相手だよ」


 常盤さんの妹さんは軽く会釈した。

 圭吾さんと同じくらいの年だろうか、おとなしそうな感じ。


 圭吾さんも軽く目礼してから、『僕の縁談が決まっていてよかったな』と、常盤さんに言った。


「何だって?」

 常盤さんが面食ったように聞き返した。

「お父上の思惑だろうが、妹さんが可愛いなら、僕の人身御供にするよりましな縁談を捜してやれよ」

「羽竜の当主夫人なら、十分に魅力的な縁談じゃないか」

「相手が僕じゃなければね」


 常盤さんは押し黙った。


 ああ……そこは同感なんだ。


「圭吾さんは優しいわよ」

 何だか圭吾さんを庇いたい気持ちが沸いて、わたしは小声で言った。

「熱心なファンなんだね」

 小ばかにするように常盤さんに言われ、わたしはムッとした。


 あなたに圭吾さんの何が分かるのよ。


「結婚式の招待状はもらえるのかな?」

 常盤さんは圭吾さんに皮肉っぽく訊いた。

「もちろん」

 圭吾さんは涼しい顔で答える。

「ただし、少し待ってもらうことになるよ。婚約期間はあと三年あるんだ。日取りは三月頃がいいと思っているんだが」

「三年? ずいぶん先の――」

 常盤さんは、ギョッとしたようにわたしを見返した。

「おい、まさか婚約者って……羽竜、君、そっちの趣味か? 道理でどんな縁談にも『うん』と言わないはずだ。人選を間違っていたんだな」


 常盤さんは明らかに驚愕を引きずっている。


「父にはよく言っておくよ。いや……そのお嬢さんに勝てそうな女の子はいないな……犯罪になる……参った」


 何の話?


「分かったら、デートの邪魔をしないでくれ」

 圭吾さんはニッと笑って、わたしの持っているぬいぐるみの耳を指でつまんだ。

「見ての通り、僕はご機嫌取りに忙しいんでね」

「あ……ああ、それじゃ近いうちにまた」


 常盤さんの姿が遠ざかると、圭吾さんはその背中に向かって、

当分会いたくないねと、つぶやいた。


「ねえ、圭吾さん」

 わたしは圭吾さんの腕に両腕を絡ませたまま言った。

「ん? 何?」

「いろんな人に時々、『そっち』とか『あっち』の趣味って言われるけど、何の事?」

「ああ、ロリコンって事だろ?」


 ふうん、ロリコンね――って? えっ?


「それって、子供の女の子が好きって事じゃない!」

「そうだね」

 圭吾さんは平然とうなずいた。


 そうだね、って……


「もう失礼しちゃう! 圭吾さんったらどうして怒らないの?」

「最近、そうかもなって思うようになってね」

「ちょっと!」


 ひどっ!


「わたしはもう親父の許可があれば結婚できる年齢よ。大人なんだから」

 圭吾さんは微笑むと、わたしの髪に指を差し込んで滑らせた。

「そう? じゃ、今夜その意気込みを僕の部屋で見せてくれないかな?」


 グッと言葉に詰まった。


 圭吾さんはクスクスと笑う。


「無理しなくてもいいよ」


 く……悔しいっ!




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