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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第1話 裏庭に龍?な はじまり編
9/171

真昼の園に潜むもの 1

 もう もう もう ムカつく!

 ホントにホントに何なんだ、あの女はっ!


 あんまり頭に来てすごい顔してたのか、出迎えてくれた和子さんの『お帰りなさいませ』という言葉が途中で止まった。


「志鶴様、どうかなさいましたか?」

「和子さんっ!」

「は…はい……」

「『とうりゅう』ってなんですか?」

「は? 闘龍でございますか? 闘う龍と書いて闘龍と呼びます。この地域の伝統的な競い事でございますよ」

「それだわ! それよ!」

 勢い込んで詰め寄ると、和子さんが一歩二歩と後ずさりする。

「それどうやってやるの? わたしもやりたいっ!」

「まあ志鶴ちゃん、大きな声でどうしたの?」

 居間のドアから貴子伯母様が顔を出した。

「お……お、伯母様、伯母様! 闘龍ってどうやるの?」

「落ち着いて、志鶴ちゃん。こちらへいらっしゃい。ばあや、ココアでも出してあげて」

 あーもう!

 居間のソファに座るのももどかしい。

「伯母様、わたし闘龍をやりたいの」

「まあ…どこで闘龍の話を聞いたのかしら?」

「学校です! 食堂でっ! 『龍も持ってないの?』って」

「――って 誰に言われたんだい?」

 ――って 圭吾さん?

 窓側のコーヒーテーブルで圭吾さんがカップを持ってこっちを見てる。

「圭吾さん、さっきからそこにいた?」

「もちろん」


 本当に?


 どうも圭吾さんって神出鬼没。

 この間だって、信号待ちのバスの中から圭吾さんを見かけた。竜城神社の前だった。なのに家に帰ったら、圭吾さんはいた。『出かけてた?』って訊いたら、『家にいたよ』って。

 見間違いじゃない。あれは絶対に圭吾さんだった。

 第一、彩名さんのアトリエで初めて会った時も、どう考えても普通じゃない。

 絶対変だよ。

 でも 家の人は誰も疑問に思ってないみたいなんだよね。


「志鶴?」

「あ、はい」

「誰に何を言われたって?」

「下級生で竜田川美月たつたがわ みつきって子」


 1年A組のその子は人目を引く美少女だった。学校の食堂で後ろに並ばれた時は、あまりの可愛さに三度見したくらいだ。

「じろじろ見るのやめてくれる?」

 どういうわけか、彼女は最初っからわたしに敵意むき出しだった。

「あ、ゴメンね。すごく可愛いから、見とれちゃって」

「そう。そっちは大したことないのね。羽竜本家にいるっていうから、どんな美人かと思ったら……ガッカリ」

 はあっ? 何であんたにガッカリされなきゃなんないのよっ!

 ムカッとしたけど、生まれてこの方口げんかなんてしたことがないわたしは、言われっぱなし……


「ああ、あの娘か」

「従妹だって言うんじゃないでしょうね」

「遠縁だよ。縁戚っていうとこかな」


 またか。親戚じゃない人ってこの町にいるのかな。


「その子が闘龍の話をしてきて、あんまりにも当てこすりみたいな事を言うから頭にきちゃったの」

 他にも会うたびに、聞こえよがしにイヤミな事をチクチクと言ってきてたんだよね。

「それで闘龍をやろうと思ったのか」

「ええと……そうじゃなくてね」

「そうじゃない?」

「売り言葉に買い言葉で、闘龍くらいできるって、自分の龍くらい持ってるって言っちゃった」


 生まれて初めて口げんかをしたわけよ。


 圭吾さんは呆気にとられたような顔をした。


 そうだよね、自分でも馬鹿だと思うもの。


「そう言ったのか? 闘龍がどんなものか知らないのに?」

「そう」

「闘龍用の龍を見た事もないのに?」

「うん」


 一瞬の沈黙の後、圭吾さんはゲラゲラと笑い出した。


 そんなに笑う事ぁないでしょ。


 ココアを持ってきてくれた和子さんが『まあ』と呟いた。

「君にはちょっと無理だと思うよ」

 笑いながら言う圭吾さんの言葉にムッとした。

「頭から決めつけなくてもいいでしょう? だいたい『龍』って何?」

「文字通り龍だよ。ドラゴンさ」

 へっ?

「ほら――」

 圭吾さんが軽く手を上げると、バサバサッという羽音がした。

 伯母さまと和子さんが小さく悲鳴をあげる。

 目の前でホバーリングしているのは小型犬くらいの大きさの生き物で、コウモリみたいな薄い膜のついた翼を広げていた。

 爬虫類独特の金色の目。真っ黒な鱗に覆われたゴツゴツした皮膚。ややがに股気味の足には鋭い爪がついていた。

 キーッ

 きしむような声でそいつが鳴いた。

「なんだ、羽トカゲの事?」

 わたしは飛んでいるそいつに手をのばした。喉の奥をキュキュッと鳴らして鳴き声を真似る。

 するとそいつはクルクル旋回してから、鷹狩の鷹みたいにわたしの腕にとまった。

「なんて事でしょう……」

 伯母様がささやくように言った。

 和子さんは腰を抜かしたように床に座り込み、圭吾さんは無言だ。

「なあに? ママも飼っていたわよ。こんなに大きくなくて真っ白いやつ」

 沈黙を破って圭吾さんが咳ばらいをした。

「どうやら、君の龍を選んだ方がよさそうだな」



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