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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

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美月 来たりて2

 何かに呪われていると言えば――わたしもみたいで、何の因果か、放課後に美月の家へ行くことになった。


「うちで(かえ)った赤龍がですね、珍種なんですよ。見に来て下さいよ。新発見かもしれないし」


 熱心に誘う美月に、根負けしてしまったのだ。


「ゴメン。わたし、龍はちょっと……」

 亜由美も美幸も逃げていった。


 裏切り者どもめ。


「僕は委員会があるから」

 悟くんの理由は真っ当だ。

「後で行こうか?」


 大丈夫よ。

 いつもいつも子守してもらわなくたって平気なんだから。


「寄り道するなら、圭吾に連絡入れときなよ」


 楽勝。いつも、よっぽど遅くなる時以外は連絡なんてしないもの。

 でもなぁ……圭吾さんって、時々思いがけない時に電話を寄越したりするのよね。




「あっ! お姉ちゃん来てる!」

 家の前まで来ると、美月が嬉しそうに言った。

「あれ、お姉ちゃんの車なんですよ」


 赤いコロンとした小型車だ。可愛い!


「わたしもああいうの欲しいな……」

 思わず言うと、

「無理ですね。圭吾さんは、先輩に運転をさせないと思いますよ」

 美月が当然とばかりに答える。


「たぶんね」

 わたしは渋々認めた。

「圭吾さん、過保護だから」


「ホント、びっくりするくらい過保護ですよ」

 美月はケラケラと笑った。

「長年知ってますけど、あんなに心配性だとは思いもしませんでした」


「お姉さんと付き合ってた時は違った?」

「うーん、そうですね。もっとわがままで、お姉ちゃんが振り回されてましたね。でも、すっごくいい感じだったんですよ。お互いにベタ惚れで」


 聞かなきゃよかったかも。美男美女のカップルかぁ。


「ただいまぁ!」

 美月は元気よくドアを開けた。

「あっ、先輩、どうぞ上がってください」

「それじゃ、おじゃまします」

 玄関に上がって、脱いだ靴を揃える。

「先輩って躾いいですね」

 美月が感心したように言って、自分の靴を揃えた。

「わたし、いつもは脱ぎっぱなしです」


 わたしは思わず笑った。


「わたしも羽竜に来るまでは野放しだったのよ」


 今ではすっかり、和子さんの躾が身についてるようだ。


「その靴」

 美月は男物の革靴を指差した。

「父のじゃない。誰か来てるのかなぁ?」


「司先生?」

「まだ学校でしょう?」

「そうよね」


「お帰りなさい、美月ちゃん。お友達?」

 私たちの背後から優しい声がした。

「お姉ちゃん! やっぱり来てたんだ! 三田先輩だよ。今日は龍を見に来たの」

「えっ? あら! 志鶴さん?」

「こんにちは。おじゃまします」

「あら、まあ……どうしましょう! お母さん! 羽竜本家のお嬢さんがいらしたわよ」


 いや……わたしは龍を見に来ただけだから。


 慌てたように出て来た美月のお母さんにも、丁寧なご挨拶をされて恐縮した。

 羽竜本家にいるというのは、こういう事。

 分かってはいるけど、まだ学生のわたしにはちょっと荷が重い。


「あの……今日は美月さんの龍を見に来ただけなので、お気遣いなく。それにお客様なのでは?」


 お母さんと入れ代わりに、優月さんが戻ったようだったけど。


「ええ、主人の知り合いの方がいらしてまして」

「誰?」

 美月が声をひそめて訊いた。

「常盤道隆さんですよ」


 あれ? それってこの間、圭吾さんのところに来た人じゃない?


「わたしあの人苦手! 先輩、龍見に行きましょ、龍を!」


 そうね、その方がいいかも。


「ひどいな、美月ちゃん。僕に会わない気?」


 気取ったような口調の声がした。


 う……わたしも苦手なタイプかも。


「あー、いらっしゃい」

 美月が口早に言う。

「見ての通り、わたしはわたしで忙しいんで、失礼します」


 美月、こういう時は、あんたの潔いほどの無礼さが気持ちいいわ。


 常盤さんがわたしの方を見た。


「君、羽竜の家の子でしょう?」


 わたしはコクリとうなずいた。


「先日、羽竜圭吾のところでちらっと見かけたよ」


 だから何?


「先輩はわたしの龍を見に来たんです。常盤さんはあっちへ行ってて下さいよ」

「分かった、分かった! ねえ君、一つだけ教えてくれない?」


 何よ。


「羽竜圭吾の婚約者って会った事ある?」


 それ、わたしよ。


「どうしてそんな事、訊くんですか?」

「いや、それがね、先日おじゃました時に縁談を持って行ったんだよ」


 聞いてないわよ、圭吾さん。


「結婚相手は決まったからと、あっさり断られたんだ」


 そうでしょうね。


「ところが誰に訊いても、詳しい話を教えてくれない。本当にそんな相手がいるのかな~なんてね」


 わたしだとは思わないんだ……


 まあいいけどね。



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