美月 来たりて1
「三田せんぱ~い!」
げっ! 竜田川美月!
思わず身構える。
「来たわね……」
亜由美がボソッとささやいた。
一年の竜田川美月は、圭吾さんの元恋人、優月さんの妹だ。
「あっ、大野先輩、滝田先輩、先日はお泊り会に入れていただいてありがとうございましたぁ」
『入れていただいて』って、あんたが無理矢理入り込んで来たんじゃないの。
「ここいいですか? いいですよね?」
美月は、わたし達が陣取っている学食のテーブルに一緒に座った。
「そのお泊り会に僕が呼ばれなくて、美月ちゃんが呼ばれたってのがしゃくに障るんだよね」
悟くんが不満そうに言う。
いや、悟くん……あなた一応男の子だから。
「じゃあ次、うちでやりましょう! 悟さんも一緒に!」
勘弁してよっ! 何でわたしが圭吾さんの元恋人の実家で『お泊り』しなきゃなんないのよ!
「美月、あんたいい加減に自分の学年の子と付き合いなよ」
と、美幸が言った。
よく言った、美幸!
「そんな事言わないで仲間に入れて下さいよ~ わたし、女の子の友達が少ないんですよ」
その美貌じゃ無理ないわ。隣に立ちたくないもの。
「食事中に龍の飼育の話するのやめりゃ、女の子の友達できるんじゃない?」
悟くんが言う。
そうよね。麺類食べてる横で巨大ミミズの話は聞きたくないわ。
「ああ、その龍の話なんですけどぉ」
「ストップ、美月!」
わたしは手を挙げて制した。
「悟くんの言う通りよ。それじゃ女の子じゃなくても逃げてくわ」
「すみません……」
しおらしい顔してても騙されないわよ。
数ヶ月前までわたし、この子にイビリ倒されていたんだから。
でも、ちょっとかわいそうかな――基本、悪い子じゃないし。
「まあ、いいわよ。龍の話は後で聞いたげる」
「はいっ!」
「志鶴は甘いわねぇ」
亜由美が苦笑する。
「そっ、だから圭吾にすぐ騙される」
と、悟くん。
「やぁね。騙されてなんかいないわよ」
たぶん。
「圭吾さんって言えば」
美月がうどんを食べながら言う。
それ食べながら巨大ミミズの話をしようとしてたの?
「今度できる宅配ピザのお店、三田先輩プロデュースってホントですか?」
「えっ? 何それ?」
美幸、声がでかいよ。
「しづ姫のプロデュースっていうか、圭吾からのプレゼントだよ」
悟くんが言う。
「しづ姫が宅配ピザ好きだって知ってた?」
「わぁーロマンチック……」
宅配ピザが?
「お姉ちゃん、やっぱり圭吾さんと結婚すればよかったのに」
前言撤回! 基本、あんたは嫌な子よ。
「結婚と言えばさ」
今度は悟くん?
これ、新手のしりとりゲームか何か?
「滝田は何でうちからの縁談、断ったの?」
え―――――っ!
「聞いてないわよ、美幸」
亜由美が怒ったように言う。
「だって断った話だから」
「残念。僕、姉弟になるの期待してたのに」
「まだ高校生だもの。もっと恋愛したいし」
「相手は誰?」
亜由美が食い下がるように訊いた。
「巧さん」
巧さん? 悟くんのすぐ上のお兄さんだ。
「ねぇ滝田、少し恋愛してからならいいわけ?」
「だいたい、巧さんだってまだ大学生じゃない」
美幸はブスッとふくれて言った。
「えーと、兄貴がちゃんと仕事について、滝田が二、三人、男をふったらOKってことだね? 兄貴に言っておくよ」
「言わなくていいっ! っていうか、この縁談、悟くんのお母さんの考えじゃないの?」
「僕の母は、要兄貴の嫁にって考えてたんだよ」
悟くんはニヤッと笑った。
「それも、『美幸ちゃんって可愛いわよね。うちのバカ息子の誰にでもいいからお嫁に来てくれないかしら。順番から言ったら要よね』って言っただけ。僕がちょっと脚色して巧兄貴に教えたら、すっ飛んでった」
キレイな顔して、悪魔だわ……
「ねぇ、子供の頃は巧兄貴の事、好きだったじゃない。どうして離れていったの?」
「色々あるのよ。とにかくお節介はやめて!」
美幸は本気で怒っている。
「はいはい。でも、これだけは言っておく。兄貴はへこんでるよ」
「知ったこっちゃないわ」
「ステキ……」
美月、あんた何か妄想してる?
「やっぱ、王道は幼なじみですかね? ケンカ別れしたけど『お前じゃなきゃダメだ』みたいな。でも、彼女に妖しい美貌の同級生が迫ってくるんですよ。あっ、大野先輩ってそれっぽいかも」
「ついにわたしに百合疑惑?」
亜由美が笑った。
あれ? 亜由美、意外と面白がってる?
「わたしもそういう感じの恋愛したいです!」
「大輔くんに言えば?」
わたしがそう言うと、美月はキョトンとした。
「大ちゃんと恋愛にどんな関係があるんですか?」
「うちの一族の男って恋愛に関して呪われてるのかな」
悟くんがつぶやくように言った。




