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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第4話 聖夜を夢見るクリスマス編

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黒服がうちにやって来る4

「ところで、クリスマスツリーってどんなのがいいの?」

 居間に戻ると、圭吾さんが言った。

「この辺には売ってないから、ネットショップで見たんだけど、たくさん種類があるんだね。驚いたよ」

「この辺のお店、ツリー売ってないの?」


 そっちの方がビックリだわ。


「そもそも需要が少ないから仕入れないんだ。隣町の店舗なら、ディスプレイで使っているけど」

「じゃ、圭吾さんは子供の頃にサンタクロースを待ったりしなかったんだ」

「有名なそのご老体の名前を知ったのは、中学生になってからだよ。もうプレゼントをもらう『よい子』って年じゃないだろう? 志鶴は待っていた?」


 わたしはサンタクロースでさえ待たなかった。

 ううん。たった一度だけ本気で待ったけど。


「それがね……早いうちに正体が親父だと気づいてしまったの」

 ニコッと笑ってみせる。

「ずっと気づかないフリしてあげてた――でもいいの? 龍神様の子孫だっていう羽竜本家の当主がクリスマスだなんて」

「サンタクロースは用意できないが、クリスマスツリーくらいは飾ってあげられるよ。体面上、この部屋に飾ることになるけどね」

「本当? あのね、わたしは緑色のがいいの。本物の木に似せたやつ」

「オーソドックスなものってことだね。他にもライトとか、飾りとか色々あるんだろう? セットの物もあるようだけど、それだとありきたりな感じがしないか?」


 わたしは『セットのでいい』と言いかけて言葉を呑んだ。


 本当にそれでいいの? 自分の夢のツリーがあったでしょう?


「志鶴?」


 圭吾さんが怪訝そうにわたしの顔を見た。


「あのね……」

「どうした?」


 優しく促されて泣きそうになる。声がつかえて出ない。


 バカみたい。子供じゃあるまいし、綺麗なら何だっていいじゃない。

 いつもみたいに圭吾さんに選んでもらえばいい。


「何でもない……」

「そんなはずないだろう?」

 圭吾さんはわたしの前にひざまずいた。

「言ってごらん?」

「子供っぽいから嫌」


 ああ、もう! こう言っている時点で子供よ!


「その子供っぽい所が好きだって言ったら気が楽になる?」


 わたしはしゃくり上げるように笑った。


「上手く言えないの」

「じゃ、下手でもいいよ。ゆっくりでいいから言ってごらん?」

「……今年はね、ライトと、雪にする綿と……飾りは三つだけなの」

「三つ?」

「てっぺんのお星様と、圭吾さんが一つ選んだのと、わたしが一つ選んだのと」

「それで?」

「来年は、二つよ」

「ああ……僕のが一つ、君のが一つ?」


 圭吾さんは分かってくれてる。


 少し気が楽になった。


「でね、結婚するでしょ? そしたら赤ちゃんの分も増えるの」

「僕の分が一つ、君の分が一つ、赤ちゃんの分が一つ」

「その子がちょっと大きくなったら、きっと変な飾りを作るわ」

「へたっぴぃな飾りをね。それも吊るすんだ?」

「そう。そうなの!」


 圭吾さんはひざまずいたまま、わたしの膝に頭を乗せた。


「志鶴は家族がほしいんだね」


 圭吾さんの声が妙に寂しそうに聞こえた。


「そうよ。圭吾さんもでしょ?」


 じゃなきゃ結婚を申し込んだりしないわよね?


「まあね」


 圭吾さんは顔をあげた。

 いつもと変わらない穏やかな表情。


 さっきの寂しそうな声は、わたしの気のせいだったのかな。


「今年はライトと、雪と、飾りが三つだね?」


 わたしはうなずいた。


「ネットで選ぶ? それとも次の休みに出かけようか? 少し遠出をすれば、直接選べるよ」


 本当に?


「お店で選びたい」


 なんだかワクワクする。


「ツリーは大きめの買わないとね。赤ちゃんがたくさん生まれてもいいように」

「そうね」


 すると、圭吾さんはおかしそうに微笑んだ。


「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんじゃないと分かっているといいんだけど」

「そんなの今時、小学生だって分かってるわよ」

「それじゃ、僕と婚姻届を出すだけじゃ生まれないって分かってるといいな」


 圭吾さんのほのめかしに気づいた。


 わたしは顔から火が出そうなくらい真っ赤になって、圭吾さんが楽しそうにクスクスと笑った。



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