黒服がうちにやって来る1
うちの表門の前に黒い車が停まっている。
ピッカピカね。
圭吾さんのお客様かな?
車に見とれながら門をくぐり抜けようとした途端、黒いスーツを着た男性四人に取り囲まれた。
みんな体格がガッチリしていて、テレビドラマで見るボディーガード風だ。
「何者だ?」
えっ? 何者って――ここわたしの家なんだけど。
とりあえず愛想笑いを浮かべる。
「ごきげんよう」
従姉の彩名さんの真似をして上品に言ってみた。
「この家の者ですが、何か?」
四人は顔を見合わせた。
「聞いているか?」
「いいや。この家のお嬢さんは一人のはずだぞ」
もうっ!
「家の者を呼んでいただけます?」
わたしはいささかムッとして言った。
一人が無線のような物で誰かと話してる。
「志鶴様?」
塀の内側から顔を出したのは、羽竜家の敷地を管理してるおじさんだった。
よかった!
「沢口さん、助けて。この人達、うちに入れてくれないの」
「困ります」
沢口さんが黒いスーツの男達に言った。
「この方は当家でお預かりしている大切なお嬢様です。無礼があってはご主人様の怒りに触れます」
「そういう事は事前に言ってくれなくては。こちらも警備の都合上、リストにない方を入れるわけにはいかないのです」
何の警備?
「お嬢さん、とりあえず名前と年齢と学校名と学年を教えてくれる?」
全然『とりあえず』じゃないんですけど。
「ああ、それと写真も撮らせてもらうよ」
えっ? 何? どうして?
「お止め下さい!」
沢口さんが止めようとしたけれど、一人がデジタルカメラをわたしに向けた。
シャッター音が消えるか消えないかのうちに、手がスッと伸びてきて男の手からカメラを取り上げた。
「何の騒ぎだ?」
圭吾さんだ。
「僕の土地で勝手な真似をされては困る」
うわぁ……
言い方は物静かだけど、かなりご立腹だわ。
「こちらも困るのですよ、羽竜さん」
黒服の一人が言う。
命知らずね。
「ご家族が増えたなら言っていただかなくては」
「君達の職務は重々知っているが、僕の家の事情をいちいち説明する気はないね。この娘は志鶴。僕が後見している娘だ」
圭吾さんはそう言って、わたしの肩を抱き寄せた。
「以後、敬意をもって接してくれ。写真はなし――請求書は僕に回してくれ」
圭吾さんはデジタルカメラを返すと、わたしを連れてすたすたと玄関に向かって歩き出した。
なんとなく違和感があって足元を見ると、圭吾さんは靴下で歩いていた。
「圭吾さん、靴は?」
「ああ……急いでいたから」
またドアを使わなかったのね?
『うわっ カメラが壊れている!』って後ろで声がした。
圭吾さんはわたしの母方の従兄で、婚約者。
この羽竜本家の当主で、海外赴任中の親父の代わりにわたしの保護者を務めている。
羽竜家は龍神の子孫と言われていて、一族の人はそれぞれ何かしら不思議な力を持っているんだけど……
圭吾さんはその中でも特別。
でも、気味悪がられたら嫌だからって、わたしにはなるべくそういう面を見せないようにしているみたい。
わたしは別に平気だけどな。
「ゴメン。嫌な思いさせたね」
圭吾さんは優しく言った。
圭吾さんが謝ること?
「それはいいけど、あの人達 何?」
「今来ている客のボディガードだ」
ホディガード付きのお客様って、すごくない?
そういえば今日の圭吾さんは、上着こそ着ていないけどワイシャツにネクタイ姿。
「わたしのために、お客様を放っておいて来たんじゃないの?」
「そう。もう戻らないと――ああ、嫌な奴が来た」
圭吾さんの視線の先には、紺色のスーツを着た男の人がいた。
圭吾さんよりもう少し年上だろうか。背筋をピンと伸ばした立ち方は、さっきのボディーガードさん達以上に隙がない。明らかに、お仕事関係のお客さまだ。
「おい、羽竜――」
「今行く」
圭吾さんは男の人に手を挙げて合図をしてから、わたしに小声で言った。
「僕が先にあいつを連れていくから、少し後からお入り」
ああ、いつものね。
圭吾さんはちょっとばかりヤキモチ妬きで、若い男の人にはわたしを会わせたがらない。
「勝手口から入ろうか?」
わたしが言うと、圭吾さんはものすごく顔をしかめた。
「志鶴は何があっても裏口から入ったりしてはダメだ。立場に合わない」
立場って……
そりゃ圭吾さんと結婚の約束をしているけど、わたしはまだ居候中の従妹なんだけどな。
「入ったら真っ直ぐ部屋に行ってて」
はーい
――って、いつもいつも言いなりになると思ってるの?




