安堵と心配3
航太はホントにスーパーマンだわ。フィールドを駆け抜ける足の速いこと!
――コータぁ!
航太の学校の制服を着た女の子達が叫ぶ。
「ひょっとして航太ってモテてる?」
わたしは隣に座るなっちゃんに訊いた。
「中学からずっとモテてる。しーちゃんったら、気付いてなかったの?」
「知らなかった」
「やっぱり。あっちの二人は放っておいていいの?」
なっちゃんが言うのは、一番後の席で試合を見ている圭吾さんと悟くんのこと。
確かにあのツーショットは目立つ。
さっきから、女の子もおばさんも二人の方をチラチラと見てる。
「悟くんはわたしがどうこう言う筋合いじゃないし、圭吾さんはわたしを好きだもの」
「じゃあ、どうして今日のしーちゃんは浮かない顔なの?」
なっちゃんにはかなわない。
「なっちゃん、恋してる?」
「理科室の人体模型になら」
「アハハ、人間によ」
「今は全然興味なし。勉強が恋人よ」
なっちゃんらしいな。
「わたしね、圭吾さんのことすごく好きなの。でも、迷ってる」
「両思いなのに?」
「わたしでいいのかなぁって思う時があるの。最後まで行ってガッカリされたらどうしよう?」
思い切って早口で言う。こんなコト、なっちゃんにしか言えない。
「経験ないし、体型にも自信ない」
なっちゃんの向こう側のまつげバチバチの女の子がこっちを見た。
あ……聞こえた?
「しーちゃんは、圭吾さんがイケメンだから好きなの?」
「違う……」
「だったら、外見ってそれほど重要じゃないんじゃない?」
なっちゃんの言いたいことは分かる。
「ねぇ」
なっちゃんの隣に座ってる女の子が言った。
「男の方だって自信なかったりするよ」
やっぱり聞こえてた?
「それにホントに好きなら、ガッカリなんてしないよ」
女の子が言う。
「ガッカリするような男なら、ろくな男じゃないし。こっちからお断り」
おー カッコイイ!
それから女の子はなっちゃんに『航太の彼女さんだよね?』って言った。
「わたしは双子の姉よ」
「えっ、マジで? じゃあそっちの子?」
「わたしはただの幼なじみ。彼氏は後ろにいるわ」
「航太はフリーだよ」
と、なっちゃん
「やった!」
女の子は小さくガッツポーズした。
その子は三浦さんといって、航太のクラスメートだった。なっちゃんのこと、ずっと彼女だと思ってたんだって。
ハーフタイムになって、航太がこっちに手を振った。
なっちゃんが手を振り返す。
知らない人が見たら彼女に見える。確かに。
わたし達の前の列に座っていた男の子達が振り返った。
「なんだ夏実がいたのか」
「あれ? 三田?」
「おー、三田さん。久しぶり」
ああ、中学の時の同級生達だ。
「確か、引っ越したんだよね?」
聞かれて近況報告。
少し話をしていたら、『志鶴?』って後ろから呼ばれた。
ヤバイ。圭吾さんがいるの忘れてた。
「なぁに?」
平静を装い振り向く。
「ちょっと」
圭吾さんがニッコリ笑う。
あ……怒ってるでしょ。
「夏実ちゃん、ちょっと志鶴を借りるね」
そう言って圭吾さんは、わたしの手を引っ張って後ろへ連れて行った。




