安堵と心配2
圭吾さんの声がする。
「志鶴、ほら、ちゃんと布団に入って寝るよ」
わたしは、寝ぼけ眼をこすった。
「わたし、眠ってないわよ」
「もうすぐ本格的に眠っちゃうだろ?」
「ここで寝る」
「ダメだよ」
「ったく!」
悟くんの声が、ちょっと離れたところから聞こえた。
「そのまま押し倒したら? いくらでも抱けるのに何やってんの?」
「前にそれで失神されてるんだよ」
思いっ切り目が覚めた。
慌てて座り直すと、『ほらな』と、圭吾さんが苦笑する。
いつの間にか、わたしは居間のソファでウトウトしていたらしい。
圭吾さんが、わたしの横に座っている。悟くんは、ダイニングテーブルのところに座って、こっちを見てた。
「悟くん、今すごいコト言ってなかった?」
「僕が? 何を?」
もう! きれいな顔も、ずるさも圭吾さんといい勝負だわ。
「ほら、おいで志鶴」
圭吾さんの声が優しく言う。
わたしは手を延ばして抱きついた。
ううん。やっぱりずるいのは、圭吾さんの方が上。その声で、わたしを言いなりにさせてしまう。
「圭吾さんが寝るなら、もう寝る」
圭吾さんの肩に顔をつけてそう言う。思ったより甘えた声になってしまった。
「連れてって」
「そっちの方が、すごいコト言ってるじゃないか」
悟くんが笑った。
そう?
何だかおかしくなって、圭吾さんの肩でクスクスと笑った。
「じゃあ、僕も寝るよ。後は二人でイチャついてくれ」
悟くんに『おやすみ』と言う圭吾さんの声が耳元で聞こえる。
「圭吾さんといると、笑ったり、怒ったり、ドキドキしたり、いろんなことが起きるわね」
「そう?」
でも、泣くことはないわ。
自分勝手だなんて言うけど、いつだってわたしのこと思ってくれてる。
ずるくて、ヤキモチ妬きで、優しい人。
「大好き」
「僕の方が、いろんなことが起きる気分だよ」
圭吾さんはそう言って、わたしをギュッと抱きしめた。
自然に、ホントにごく当たり前に、わたし達は唇を重ねた。
短いキスを繰り返し、圭吾さんの唇が頬からこめかみへ、さらに首筋へと下りていく。
わたしは少し頭をのけ反らせた体勢のまま、『圭吾さん?』と、呼びかけた。
「ん? 何?」
キスを繰り返しながら圭吾さんが答える。
「わたしって、今、押し倒されてるの?」
わたしの言葉に、圭吾さんはピタッと動きを止めた。
それからわたしの髪に顔を埋めると、喉の奥でククッと笑った。
なぁに?
「僕は今、君を誘惑してるんだ」
圭吾さんは顔を伏せたまま、くぐもった声で言った。
「そうなの?」
「あんまり効き目はないみたいだけどね」
「そんなことないわよ」
圭吾さんは顔を上げると、わたしの鼻を軽くつまんだ。
「嘘つき」
圭吾さんは笑ってる。
だけど、わたしは笑えなくて。
「わたし、圭吾さんが望むようにちゃんとできてる?」
「志鶴はそのままでいいんだよ」
切ないほど優しく、圭吾さんが微笑んだ。




