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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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安堵と心配1

「ねえ、結局うちの親父は無事だったってこと?」


 わたしはアイスクリームのふたを開けながら、圭吾さんに訊いた。


「そう。村瀬さんに電話する前に、新聞社の山口さんって人にも電話してね。叔父さんからは普通にメールや電話が来てたそうだよ。たぶん、うちのネットは例の男爵夫人が何かの小細工したんだろ」

「それ、昨日のうちに分かってたのよね?」

「ゴメン。志鶴はすぐに顔に出るから」


 もう、ひどい! わたしが心配してるの知ってたくせに。

 最高級のアイスクリームなんかで、ごまかされないわよ――あ……でも、これ美味しい!


 八年前、ママの龍が死んだ時、村瀬さんの奥さんも落雷で亡くなったとそうだ。

 わたしはそれを目撃していた。その記憶はない。思い出さない方がいい記憶だからだと、圭吾さんは言う。


 親父は何をどこまで知っていたのだろう? 羽竜家にわたしを預けたのは、このためだったの?

 電話やメールできける話でもなく、親父が帰国した時にゆっくり話してもらうしかない。


 わたしはアイスクリームをすくって、圭吾さんの口に入れた。


「いけるね」

 圭吾さんが言う。

「家に帰ったら取り寄せる?」

「なに? そんなに美味しいの?」

 お風呂上がりの悟くんが顔を出した。

「悟くんの分、冷凍庫に入ってる」

 悟くんは、そのままキッチンへ行き、アイスクリームを手に戻って来た。

「いいな、この感じ。静かでさ。僕、このまま三人で暮らしたいくらいだよ。圭吾のとこ、置いてくれない?」

「嫌だね」

 圭吾さんが笑う。

「お前がいたんじゃ、志鶴にキスしてもらえない」

「ちぇっ、騒々しい五人兄弟の中に生まれてみなよ。うんざりするから」


「さて、みんな揃ったことだし」

 わたしは、圭吾さんと悟くんを交互に見て言った。

「わたしがお風呂に入っている間にしてた話を聞かせてちょうだい」

「僕は風呂、まだだから……」

「圭吾さん!」

「はいはい」

 圭吾さんは、ため息をついて座り直した。

「僕達が何話してたっていうの?」

 悟くんが無邪気そうに言う。

「そうね。ひそひそ話して、わたしの顔を見るなりピタッとやめるような話かしら?」

「エロい話だよ」

「だまされないわよ。村瀬さんのお姉さんを病院に連れて行った時、村瀬さんとずっと話していたわよね、圭吾さん?」

「わざわざ怖い話を聞くことないじゃないか」

 圭吾さんが言う。

「怖いかどうかは、わたしが決めます」


「村瀬さんは若い頃に、オカルト雑誌の取材で久慈律の話を知ったんだ」

 圭吾さんが渋々話し出す。

「調べていくうちに、自分が律の子孫だと知ったらしくてね。その仕事の後も、ずっと律について調べていた。そして、あの肖像画を手に入れたんだ」


 鹿鳴館の魔女、久慈律。

 幕末のどさくさで出生については不明。

 幼い頃に横浜の貿易商、内藤伝衛門宅に奉公に上がり、十七歳で内藤家の長男と結婚した。まもなく一男をもうけたが、夫、義父が相次いで病死。

 この時の子供が村瀬さんの母方らしい。

 子供を婚家に残し、内藤家と懇意だった久慈男爵の後妻に収まる。

 その後、男爵も病死。

 久慈男爵の長男が男爵毒殺の疑いを訴え出たが、律は逮捕直前に失踪し、そのまま行方知れずになったという。

 当時の噂では、律は内藤家に出入りしていたフランス人から黒魔術を教わり、魔術で男爵をたぶらかしたとか、毒殺ではなく呪い殺したとか言われていた。


 律の肖像画を手に入れてから、村瀬さんの奥さんは人が変わったようになったという。


「お母さんを亡くした志鶴をしつこく養女にしたがったらしいね。だが叔父さんが頑として譲らず、志鶴を連れて引越す事にした。落雷があったのは引越しの日の事だ」

 圭吾さんは、反応を探るようにわたしの顔を見た。

「続けて」

「奥さんが亡くなった後、村瀬さんは律の肖像画は納戸の奥にしまい込んでいた。それが去年、未亡人になって同居することになったお姉さんが肖像画を見つけて、自分の部屋に飾った――その後は知っての通りだ」

「ふうん、そういう話だったんだ」


 あっ、声がうわずっちゃった。


「言わんこっちゃない」

 圭吾さんが顔をしかめた。

「まだ当分一緒に寝てもらえるんじゃない?」

 悟くんが陽気に言った。



※久慈律については、モンテスパン夫人を下敷きにした創作で、実在の人物ではありません。

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