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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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呪縛4

「これより先は、この羽竜圭吾が三田志鶴への呪詛を代わり受ける」


 圭吾さんの声が響き渡る。


 わたしの少し先がキラキラ光って、空中から悟くんが床に飛び降りて来た。

 小脇に額縁のような物を抱えている。


「うわっ! ひどいよ、圭吾。にわかだってのは分かるけどさ、もうちょっとマシな線を引いてくれない?」

「悪い。探し物はそれか?」

「そうみたい」


 悟くんが額縁を持ち直した。

 真紅のドレスを身にまとった、黒髪の貴婦人の肖像画だ。


「裏書きがあるよ。『明治十八年 久慈(くじ) (りつ) 男爵夫人の像』 これ、あなただよね?」

「小賢しい! その絵を破ったとしても、わたくしに害をなすことはできなくてよ」

「その絵に封じる事はできる」

 圭吾さんが言う。

「元々その絵に宿っていたのだろう?」

「わたくしは魔王サタンの忠実な(しもべ)。お前達ごときに封じられると思うのか」

「分かってないね」

 悟くんが肩をすくめた。

「あなたは、たかだか外国の邪神の使徒だろう? 僕ら羽竜一族は龍神の子だ。しかも、一族の長はその地位に就く時に、龍神の力の一部を借り受ける――あなたが前にしているのは龍神の力だよ」


 圭吾さんはわたしを自分の後に下がらせると、両手を音高く一拍打ち鳴らした。


「久慈律。僕からあなたへの呪詛返しは済んでいる。あなたに知らしめる事により、今この時、(まじな)いは成り立った」

「なんですって?」

「あなたがどこで呪術を学んだかは知らないが、呪詛というのは、相手が(のろ)いを受けているのを知らなければ成立しない。あなたが志鶴に紙人形で影を送りつけたのは、そのためだろう? だが、それは同時に、あなたの存在を僕に知らせる危険もはらんでいたんだ」


 彼女は弾かれたように立ち上がると、後ずさりした。


「あなたは僕の呪縛の内にある」

「地獄にまします我等がサタン――」

「無駄だ。召喚する時間はない」


 圭吾さんがもう一拍打ち鳴らす。


()が糸切れよ。()(こと)枯れよ。()(たま)消えよ」


 ヒッと短い悲鳴の後に、彼女が喘ぐように上を向いた。その口から、無数の黒い蝶のような物が溢れ出てくる。


()()ね」


 圭吾さんの言葉とともに、黒い蝶は羽音をたてて、悟くんの持つ絵に吸い込まれていった。

 彼女が崩れ落ちるように床に倒れる。


「封じた!」


 圭吾さんがそう言うと、悟くんはニッと笑った。


「圭吾、しづ姫の耳ふさいで――燃えよ」


 圭吾さんが、慌ててわたしの両耳を手でふさいで抱き寄せた。


 何? 何なの?


 ふさがれた耳に、かすかに叫び声のようなものが聞こえた。



 しばらくして圭吾さんが手を離した。


「ねえ、どうなってるの?」

 わたしが言うと、悟くんは手にした額を眺めて顔をしかめた。

 絵は、わたしからは見えない。

「こいつは見ない方がいいな」

 悟くんが言う。

「胸が悪くなるよ。どうやら僕には画才がないらしい」

「どれ」

 と、圭吾さんが回り込んで絵を見る。

「ひどいな。悪魔崇拝の遺物なんてどこに納めればいいんだろう。キリスト教の教会か?」

「寺でいいんじゃない? お祓いして焚き上げしてくれるようなさ。封じ込めたわけだし、この絵が消えればそれでいいんだろ?」

「それは、俺に処分させてくれないか?」


 思いがけない声に、わたし達は一斉に振り向いた。床の上に座り込んでいた村瀬さんだった。


「久慈律は、俺の先祖なんだ」


 ええっ? そうなの?


「男爵夫人が乗り移っていたその女性は?」

 圭吾さんが尋ねた。


「俺の姉だ。律は八年前には俺の妻に乗り移っていた。すまん志鶴ちゃん。俺は何が起きているのか薄々分かっていたが、どうすることも出来なかった」

 村瀬さんは頭を下げた。

「三田に、君を連れて外国に移り住むように警告するのが精一杯だった」



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