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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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呪縛2

 翌日、圭吾さんと悟くんと三人で家を出た。

 三十分くらい車を走らせ、時間制の有料駐車場に車を止める。


「ここからは歩いてすぐだから」

 圭吾さんが言った。


 どこか見覚えのある町並み。


 ここって?


「圭吾さん? わたし、ここ来たことあるわ」

「志鶴が前に住んでいた近くだよ」


 ああ、そっか。


「どこ行くの?」

「叔父さんの友達だっていう村瀬さんの家へ。昨日、電話で会う約束をした」

「親父のこと何か分かった?」

「分かるんじゃないかな。志鶴に会って話をしたいそうだ」


 村瀬さんと会うのはいつ以来だろう? 去年は何度か、親父に電話が来ていたけど。


 圭吾さんは、迷うことなく歩いて行く。


 そう。この道、覚えてる。

 その角を曲がったら、村瀬さんの家だったはず。


「あれ」


 わたしは、二軒ほど先の家を指差した。

 

 確かにあの家よ。記憶の中にある家とは、何かが違うけど。


「あの家だね?」

 悟くんが、圭吾さんに向かって言った。

「ああ。裏手に開けてある」

「じゃ、僕はここで」

「悟くんは来ないの?」

 わたしの問いに、悟くんは頷いた。

「ちょっとばかり、やることがあるんだ」

「上手くやれよ」

 と、圭吾さん。

「やだなぁ、僕を誰だと思ってるの?――しづ姫、また後でね」


 圭吾さんに促されて、わたしは悟くんに手を振った後、村瀬さんの家の前まで行った。

 

 分かった。壁の色が前と違うんだ。

 あれから何年もたつんだから、壁だって塗り替えてるだろう。


 圭吾さんがチャイムを押した。

 インターホンから『はい』と、男の人の声がした。


「三田です」


 圭吾さんがわたしの代わりに言う。


 間もなくドアを開けた村瀬さんを見て、わたしは驚いた。

 白髪が目立つボサボサの髪。口元にくっきりと刻まれたシワ。血色の悪い肌の色。眠たげなまぶたの下の充血した目――確か、うちの親父と同じ年なのに、村瀬さんははるかに老けて見えた。


「やあ志鶴ちゃん、久しぶり。どうぞ上がって」


 玄関から長く薄暗い廊下が続いている。

 突き当たりにある曇りガラスの窓のほかに窓はない。ところどころできしむ床の音に、奇妙な既視感を感じた。


 バカね、当たり前じゃないの。ここには何度も来たでしょ?


 それでも、何とも言えない気味悪さがあって、わたしは圭吾さんの手に自分の手をすべりこませた。

 圭吾さんが指をからめて、ギュッと手を握った。


 大丈夫。圭吾さんがいるもの。


 左側に、二階へ行く階段がある。

 このドアは納戸、このドアはトイレ、向こうがお風呂場、キッチンへのドア。


 あの日、わたしは龍を抱えていた。


 真っ白い小さな龍。わたしの闘龍のパートナー、シラユキよりも一回り小さくて。


 名前は?


 名前?


 ――そう、ハク。


 猫のようにおとなしい龍だった。



 村瀬さんが立ち止まって、ドアノブに手をかけた。

 わたしは足を止めた。圭吾さんも立ち止まる。


「志鶴?」


 その部屋には入りたくない。

 入っちゃダメ。

 だって……だって、その部屋にはあの人がいるから。


 圭吾さんに言いたいのに、声が出ない。


――お入り


 頭の中で声がする。


――お前はわたくしに逆らえないよ


 あの人の声がする。


――さあ、おいで



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