呪縛1
数時間たって帰って来た圭吾さんは、黒とオレンジ色の包装紙でラッピングされたチョコレートの箱を二つ手にしていた。
リボンの代わりに、小さなジャック・オ・ランタンがついている。
「夏実ちゃんと志鶴に」
わたしとなっちゃんは、歓声をあげた。
「野郎にはお土産無し?」
悟くんが言うと、圭吾さんは箱入りのポテトチップスをテーブルの上に乗せた。
こちらも、黒とオレンジ色の特別パッケージだ。
「なんで全部黒とオレンジなの?」
悟くんが首をかしげる。
「だって、もうすぐハロウィンだよ」
と、わたし。
「それ、外国のお祭りだろ?」
「最近はクリスマスみたいに、日本でもハロウィン関連の物がお店に並ぶのよ」
「企業の陰謀だよ」
って、圭吾さんが言う。
「バリバリの神道の我が一族には、縁のない話だね」
「ひょっとして、クリスマスもやらないの? クリスマスツリーもなし?」
思わず、わたしの声は嘆くようになってしまった。圭吾さんが、グッと言葉を詰まらせる。
「大丈夫だよ」
悟くんがニヤリと笑う。
「今年は圭吾が、でかいツリーを買うから。たぶん、しづ姫の身長よりでかいやつだよ」
「インターネットで注文しておいた方がよさそうだな」
圭吾さんがつぶやいた。
「まあそれはそうと、今回の件はこの系統だよね」
悟くんはハロウィン仕様のパッケージを指差して言った。
「そういうことだろ?」
「ああ、同じ臭いがするね」
圭吾さんが答える。
「だが、系統が違っても上手く押さえ込めるかな」
「基本は一緒だろ? 相手は見つかった?」
「予想通りだったよ。ただ、本体が見つからない」
「近くにあるさ。そっちは僕の仕事だ」
何の話?
「明日は志鶴も出かけるからね」
圭吾さんが言った。
そうなの?
「じゃあ、明後日はわたしと出かけられるかしら?」
なっちゃんが、チョコを口に入れながら言った。
「航太のサッカーの試合があるのよ」
「明日で用事は片付くと思うよ」
圭吾さんが答える。
「航太って陸上部じゃなかった?」
わたしは首をかしげた。
「陸上もやってる。サッカーは助っ人だ」
航太の言葉に、悟くんが
「たまにいるんだよな。こういうスーパーマン」
って言った。
日暮れからじょじょに暗くなってくると、なんだか心細い気がした。
ずっと、圭吾さんの側にベッタリとくっついて、お風呂も大急ぎで上がった。
「圭吾さん、来て!」
洗面所から、情けない声で圭吾さんを呼ぶ。
「どうした?」
圭吾さんが来るまで、わたしは頭からバスタオルをかぶっていた。
「髪、乾かして。鏡を見たくないの」
「じゃ、目をつぶっていて」
目をつぶると、圭吾さんがバスタオルを外した。
丁寧にふいてもらって、それからドライヤーで乾かしてもらった。
髪に触れる圭吾さんの指にホッとする。
その後、居間のソファーで圭吾さんの膝に頭を乗せて横になった。
圭吾さんが黙って髪を撫でる。
ふんわりと気持ちよくなって、ウトウトとした。
「いつもこんな?」
悟くんの声がする。
「いいや。かなり神経質になってるみたいだ」
圭吾さんの声。
「かわいそうに」
「報いはきっちりと受けさせる」
今のは圭吾さんの声? 凍りつくように冷たい声だ。
「誰を相手にしてるか理解したら、向こうさんも死ぬほど後悔するね」
「もう死んでいる人間かも知れないがね」
背筋がゾクッっと寒くなって、圭吾さんの膝で身じろぎをする。
「大丈夫だよ、志鶴」
いつもの優しい声がして、なだめるような手がわたしの髪を撫でた。




