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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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過去への扉1

 圭吾さんを見て、なっちゃんは目を丸くした。


「後見人っていうから、もっとおじさんだと思ってた」


「おっ、ピザじゃん」

 航太が一切れつまんで食べて、水道に直行した。

「バカしー! どんだけタバスコかけてんだよ」

「辛い方がおいしいよ」

「おめぇは限度ってものを知れ!」

「久しぶりだから買い過ぎちゃったの!」

「量の話じゃねぇよっ!」


 なっちゃんがケラケラ笑う。


「やっぱり、しーちゃん変わってない。お母さんが変わったって言うから心配したの」

「そんなに変わってないと思うよ――航太、こっちの食べて。なんにもかけてないから」


 航太は、圭吾さんの向かい側にどっかり腰掛けてピザを食べはじめた。

 わたしとなっちゃんは、アイスクリームを食べることにした。


「あんた、仕事してんの?」

 航太が圭吾さんに言う。

「不動産関係の自営業だよ。父が亡くなったので家業を継いだ」

 圭吾さんは穏やかな口調で答えた。

「稼ぎはいいよ。使用人もいるし、志鶴には何の不自由もない暮らしをさせている――君が訊きたいのはそういうことだろう?」

「ああ」

 航太がケンカでも売るように言う。

「しーが、あんたを見る目が気に入らない。あんたの言うことなら、なんだって聞きそうだ」

「そうだといいんだけどね」

 圭吾さんが微笑む。

「これでも、志鶴の扱いには苦労しているんだよ」

「後見人って、二十歳になったらいらないんだよな?」

「まあ、通常はそうだね。でも成人しても、志鶴はここには帰らないよ」


「そうなの?」


 なっちゃんが、わたしの方を見た。


「うん。ずっと圭吾さんとこで暮らすの。だからケータイ番号とメアド教えてね」

「そうだった。わたし達、いつでも会えたから電話使ったことないもんね」

「おいっ!」

 と、航太。

「女二人で完結してんじゃねぇよ! なんで、しーが帰って来れねぇんだよ?」

「君に何の関係がある?」

 圭吾さんの言葉に、航太は言葉を詰まらせた。

「俺はっ!……俺は、しーの幼なじみだ。心配する権利くらいある」

「心配ないみたいだよ、航太」

 なっちゃんが言った。

「はぁ? 夏実、何見てんの?」


 なっちゃんは、わたしが見せたケータイに保存してある画像を見てた。


「ほら、見て航太。しーちゃんが笑ってる」

「ホントだ。笑ってる」

 航太が呆然としたようにつぶやく。

「いやね、二人とも。わたしだって笑うわよ」

「ううん」

 なっちゃんは首を振った。

「写真撮る時、しーちゃんは笑わない。絶対に笑わない」


 そうだっけ?


「お前、子供の頃の写真見てみろよ。笑ってるのなんてほとんどないはずだぞ」


 そうなの?


「これ、誰が撮ったの?」

 なっちゃんがわたしにケータイを戻してよこした。

 わたしと彩名さんが笑顔で写ってる。

「これ、圭吾さんに撮ってもらったやつよね?」

 わたしは、圭吾さんにケータイを渡した。

「そうだね。うちに来て一ヶ月くらいして、志鶴がお父さんに送るからって言って撮ったやつだ」

「航太、あきらめな」

 なっちゃんが言った。

「しーちゃんは、この人のコト好きなんだよ」

「あきらめるも何も、俺は別にしーのコト好きなわけじゃねぇ」

 航太はぶっきらぼうに言った。

「いや、幼なじみとして好きだけど、恋とか、そういうのじゃねぇから」

「そいつはよかった」

 圭吾さんがボソッとつぶやいた。




 なっちゃんと航太が帰った後、圭吾さんがわたしのアルバムを見たいと言い出した。

 なんとなく気恥ずかしいけど、アルバムを出してきて二人で見た。

 表紙を開くと、赤ちゃんのわたしを抱いたママがいた。


「彩名にそっくりだ」

 圭吾さんが言った。


 よちよち歩きのわたし。


 幼稚園児のわたし。


 小学校の入学式――誰が撮ってくれたんだろう――家族三人の写真。


 龍と撮った写真もある。


 そういえば、この龍ってどうしたんだっけ?


「この家、今のマンションじゃないね?」

「うん。一軒家を借りてたんだ。ここに引っ越したのはママが亡くなった後だよ」

「この人、誰?」

 圭吾さんが指差したのは、ママと同じ年頃の女の人。


 あれ? 誰だっけ?


「確か、親父の友達の村瀬さんところの人。お姉さんだったか、奥さんだったか分かんないけど。家が近かったから、ママが亡くなった後、しばらくわたしの面倒を見てくれたはず」


 それから今のマンションに引っ越して来て、なっちゃんと航太と写ってる写真が増えた。


 ホントだ 笑ってない。


 どの写真も、生真面目な表情のわたしがこっちを見ていた。


 圭吾さんがそっと写真のわたしを指でなぞった。

「できることなら、この日の君を抱きしめたい」

 わたしは瞬きして涙を払うと、圭吾さんの肩に頭を寄せた。

「帰ったら、圭吾さんの写真も見せてね」



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