古巣へ3
うちのマンションに着いたのは、圭吾さんが言った通り夜の七時過ぎ。
親父は日本を出る前に車を処分していたけれど、駐車場の契約はそのままにしていたので、そこに車を停めた。
「この近く、駐車場が少ないから、一度契約を切っちゃうと探すの大変なの」
「ふうん。家は何階?」
「五階。エレベーターはあっち」
わたし達は、マンションの入口に向かって歩いて行った。
入口の前まで来た時に、道路側から来た、ジャージを着た男の子に声をかけられた。
「しー?」
げっ! 航太だ。
「やっぱ、しーじゃん! 帰って来たのか!」
幼なじみの航太は近寄って来ると、わたしの手をがっちりつかんだ。
うわぁ 手首つかむのやめてよ~
「またこっちに住むんだろ?」
だから、離してってぇ。
見兼ねた圭吾さんが間に入ってくれた。
「手を離してくれないか? この子、手首つかまれるの嫌がるから」
航太が手を離した。
「誰?」
「従兄の圭吾さん」
わたしは圭吾さんの方に、そろそろと後ずさりした。
「で、お隣りの航太くん。双子の夏実ちゃんもいるの。同い年よ」
「こんばんは」
圭吾さんは穏やかに言った。
「どうも」
航太はぶっきらぼうに言って、わたしを見た。
「帰って来たんじゃないの?」
「荷物取りに来たの。月曜まで学校が休みだから」
「なぁんだ。夏実ががっかりするぜ。お前、夏休みも帰って来なかっただろ」
「うん。色々あって」
「彼氏でもできた?」
ボッと顔が熱くなった。真っ赤になってる、きっと。
「えっ! マジで?」
「大きなお世話! 中に入るよ」
わたしは圭吾さんの腕をとって、マンションの中へと入った。
航太が後からついて来る。
そうだよ。隣なんだから行き先同じだった。
「なあ、マジで彼氏いんの?」
「うるさい」
あんたの目の前にいるわよ。
エレベーターに乗り込むと、わたしは圭吾さんの後ろに隠れた。
「そんなに離れなくてもいいじゃん」
航太が言う。
「だって、あんた髪引っ張るもの」
「いつの話だよ。ガキじゃないんだからそんなコトしねぇよ」
十分ガキよ。
「なっちゃんは元気?」
「ああ。毎日元気に勉強してる。勉強だぞ? 信じられっか?」
「なっちゃん、頭いいもの。お医者さんになるんだから」
「まあ、双子とはいえ、俺とはデキが違うな」
エレベーターのドアが開いて、わたし達は降りた。
「しーはどうするんだよ。高校出たら。こっちの大学に入らないのか?」
あ……圭吾さんの奥さんになるって決まってるから、進路って真面目に考えたことない。
「大学は――行っていいんだっけ?」
見上げると、圭吾さんがうなずく。
「大学は行く。たぶん。今住んでるところの近くで」
航太は不思議そうに、わたしと圭吾さんを交互に見た。
「お前ってさ、その従兄の人んちの子供になったのか?」
「そう思ってくれていいよ」
圭吾さんが言った。
「志鶴は、もう僕の家族だから」




