古巣へ1
放課後、学校に迎えに来てくれた圭吾さんは、ちゃんとわたしの旅行バッグを持ってきてくれていた。
だけど、車を走らせるとすぐに言った言葉は、
「怒らないでくれる?」
そういうコト、先に言うのね。
「内容によっては怒るかも」
「服を買った」
はぁ?
「制服のまま二時間も車に乗りたくないだろう?」
別に構わないけど。
「店で着替えられるように手配してある。選んだのは彩名だから気に入ると思うよ」
気に入る気に入らないって問題?
「圭吾さんがすぐわたしに服を買いたがるのは、わたしの服装センスがひどいから?」
「センスが悪いとは思わないよ。だけどうちに来てすぐの服装は、センス以前の問題だった」
「変だった?」
「変じゃないさ。ジーンズとTシャツ、若いんだしかわいいとは思う。でもね、色柄が違うだけでジーンズとTシャツばかりのクローゼットってのもどうかな」
まあ、確かにそうなんだけど。
「ほとんど出かけないんだから十分だもの」
「『十分だった』だよ。今は僕や彩名や友達とも出かけるだろ」
「それはそうだけど、圭吾さんは買いすぎじゃない?」
「そうかな? でも今回は特に僕の買った物を身につけていてほしいんだ。羽竜一族の特別な力ってのはこの土地とそれに属するものに強く作用する。志鶴はここに来て日が浅いから『僕のもの』って印をつけておきたい」
――君を守るために
口に出されなかった言葉が聞こえた気がした。
「分かった」
また上手く言いくるめられた気がするなぁ。
でも車がお店の駐車場に停まったとたん、あっさり『分かった』と言ったのを後悔した。
「ここ、彩名さんのお気に入りのお店だよね? 前に一緒に来たけどものすごく高いんだよ」
「知ってるよ」
圭吾さんはいとも簡単に受け流した。
「僕にはそれだけの収入はあるんだけどな」
「でも、気が引ける」
「志鶴は僕の婚約者だ。ただの恋人じゃないんだよ。分かってる?」
「うん」
「じゃ、中に入って着替えて、僕にありがとうのキスをしてくれ」
お店に入るとすぐに試着室に案内された。
彩名さんが選んでくれたのはくすんだブルーのフワッとしたワンピース。
んー、確かに自分じゃ選べないデザインだわ。
彩名さんが選んでくれるのはいつもクラシカルでシンプルな感じ。服だけ見ると地味かなって思うけど、着てみるとすごくおしとやかな女の子っぽくなる。
たぶん圭吾さんの好みを考えて選んでるんだと思う。
着替えて戻ると、圭吾さんはクレジットカード明細にサインしてた。
いったい、いくらだったんだろ。
お店の人が制服をきれいにたたんで、『他のお品物と一緒にお屋敷にお届けいたします』って言った。
待て、待て、他の品物って彩名さんのお買い物だよね?
圭吾さんの方をチラッと見たけれど、ポーカーフェイス。
いいわよ。後で絶対白状させるんだから。
お店の人が見てない時に、とりあえず『ありがとう』って圭吾さんの頬にキスした。
クールに言えたかな?
「これはなだめるのに苦労しそうだ」
圭吾さんは、横目でわたしを見てつぶやいた。




