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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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黒い影4

 とうとう、親父と連絡が取れないまま連休を迎えた。


 もう少しで一ヶ月になるよ。


 本気で心配になってきた。


 水曜日の夜に、自分の部屋で旅行バッグに着替えを詰めていると、圭吾さんが顔を覗かせた。


「何してるの?」

「着替え、持っていこうと思って」

「いらないんじゃない?」


 いるでしょう?


「圭吾さんはバッグを用意してたじゃない」

「志鶴のは、途中で買えばいい」


 またそうやって!


「出かけるたびに買ってたら、クローゼットがいっぱいになるよ」

「僕の部屋のクローゼット、がら空きだけど?」

「……」

「どうしてまだ二階に住みたがるのかな。どうせ寝る時は僕の部屋に来るじゃないか」

「落ち着いたらまた自分の部屋に戻ります」

「ふうん、そうなんだ」


 あ……また何かたくらんでるでしょ。


 一見、圭吾さんはわたしのわがままを何でも許すみたいだけれど、気がつけば上手にあしらわれていて、わたしの方が言いなりになっている事がある。


 ずるいんだから。


 油断も隙もない人。でも、大好きなの。


「圭吾さん、明日、ちゃんとこのバッグ持って迎えに来てね」

「分かってるよ」

「圭吾さん」

「ん? 何?」

「わたし、この家に来てよかった。伯母さまも、彩名さんも、そして圭吾さんも、ママがわたしに遺してくれた最高のプレゼントだと思う」


 圭吾さんは優しく微笑んだ。


「おいで、志鶴」

 わたしは圭吾さんの腕の中に包まれた。

「志鶴も、叔母さんが僕に預けてくれた最高の宝物だよ」

「ねえ、親父が急に羽竜の家とつながりを持とうとしたのは、赴任先がホントに危険だったからかな。自分に何かあった時、わたしが一人ぼっちにならないように考えたからなの?」


 圭吾さんは、わたしをギュッと抱きしめた。


「僕が君との結婚を願い出た時、これで安心だと言っていたのは確かだよ。でも、正月には一時帰国するとも言ってたし、大丈夫だよ。きっと無事だよ」

「圭吾さんはどこにも行かないでね」

「行かないよ」

 そう言ってから圭吾さんは笑い出した。

「心配しなくていいよ。ついこの間、志鶴に捨てられるんじゃないかって青くなってたんだから。忘れたの?」

「そうだった」


 わたしもクスクス笑った。


 ちょっと前までは、優月さんにヤキモチ妬いてた。

 だけど、圭吾さんの関心がわたしだけに向いていると分かったら、嬉しくって、その半面ちょっと怖くって、ジェットコースターな気分。


「支度が終わったなら僕の部屋に行こう」

「何かいいことがある?」

「アイスクリームがあるよ。ラムレーズンの」


 うわぁ、おいしそう。


「それから二人でいられるよ」


 それはステキ。


「誘うの上手ね」

「そう心がけているからね」


 そう言ってから圭吾さんは、急に右手を上に上げて何かをつかんだ。


「なぁに?」

「虫がいた」


 圭吾さんは窓を開けて、何かつぶやいた後に手を開いてフッと息を吹きかけた。

 手の平にいた蝶のような虫が、ヒラヒラと羽ばたいて飛んで行く。


 だけど


 羽ばたく前に圭吾さんの手の平にあったのは、黒い紙切れじゃなかった? ちょうどあの黒い紙人形みたいな――そう思った。



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