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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第1話 裏庭に龍?な はじまり編

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始まりの朝 2

 あのですね


 普通、校長先生ってオジサンと相場は決まってませんか?


 ところが、この学校の校長は若かった。せいぜい三十過ぎってところじゃないの?

 羽竜の血筋ってイケメン揃いなのか、かなりステキ。女子生徒にモテまくりだな きっと。


「圭吾! お前がここに顔を出すなんて珍しいな!」

「どーも。今日は来ない訳に行かなくてね」


 あれ? 気のせいかな。

 圭吾さんの話し方、すっごく冷たい。


「うちのお姫様が今日からここに通う事になっているんだが」

「うちのお姫様って……」

「この娘だよ。三田志鶴――訳あって僕が預かる事になった。志鶴、校長の羽竜司うりゅう つかささん。さっきも言ったように父方の従兄だ」

「三田志鶴さんですね? 確かに転入手続きはすんでいますよ」

 校長先生はわたしに向かって言った。

「ここで有意義な学校生活を送られるよう願っています」

「ありがとうございます」

「それで圭吾、手続きの時は貴子伯母様から書類が出ているが、お前が保護者でいいのか?」

「僕でいい。何か問題でも?」


 やっぱり圭吾さんはこの人と仲悪そう。


「いや……問題はないが。いくつか書類を書いてもらうぞ」

「構わないよ」


 うわぁ 冷気が漂ってる。


 圭吾さんは勧めもされないうちに、わたしを応接用の椅子に座らせ、自分はひじかけのところに浅く腰掛けた。

 校長が書類を挟んだボードとペンを差し出す。


「この娘のクラスは?」

 書類にペンを走らせながら圭吾さんが訊く。

「編入試験の結果からいくとBクラスだ」

「それで結構。特別な成績を求めているわけではないから構わないよ」


 ブーッ! 平凡な成績で悪かったわね!


「それでは担任を呼ぼう」

「それには及ばない。自分で連れていくから――志鶴、ここ書いて」


 はいはい 生年月日と本籍ね。


 わたしは圭吾さんが指さした所を書き入れた。

 わたしが書き終わると、圭吾さんはもう一度書類をチェックしてから校長にボードを返した。


「じゃ、この娘を教室に送り届けたら帰るから」

「圭吾……ゆっくり話せないか?」

 圭吾さんの体が強張るのが分かった。

「悪い。また今度にしてくれ」

「だが……」

「時間は作る。今はやめてくれ――おいで志鶴」


 圭吾さんがわたしを引っ張るようにして部屋から連れ出した。

 部屋を出る時、振り向きざまに見た校長の顔はどこか悲しげで、わたしの手を引っ張りながら廊下を速足で歩いていく圭吾さんの後ろ姿もどこか辛そうで――

 わたしはただ黙って小走りになりながら圭吾さんの後ろをついて行った。

 階段まで来て、二段下りたところで圭吾さんがいきなり立ち止まった。


「志鶴」

 前を向いたまま圭吾さんが呟くように呼ぶ。

「何ですか?」

「恨みとか憎しみっていつかは消えると思うか?」


 それが圭吾さんと校長の間に横たわっているものなの?


「親父が――父が言ってました。恨んだり嘆いたりし続けるには、人生は短すぎるし貴重すぎるんですって」

 圭吾さんは、ため息を一つつくと振り向いた。階段の段差のせいで顔の高さが同じくらい。

 片手が上がり、わたしの頬をそっと撫でた。そのまま手はこめかみを滑って髪に指を差し込み撫で下ろす。


 初めて圭吾さんに会った時と同じ。


「賢者の言葉だね」


 寂しげな顔。


 ああ、圭吾さんはあの人を恨んでいるわけじゃない。ただ悲しいだけなのだ。以前は、仲のいい従兄弟だったのかもしれない。


「自分で思っているより人生はとっても短いから、一日一日を大切に生きなさいって――きっと父はママの事を考えて言ったんだと思う。若いうちに死んでしまったから」

 圭吾さんは微かに笑みを浮かべた。

「君はいいな。純粋で、綺麗で。僕が失ってしまったものを持っている。分けてもらいたいくらいだよ」


 分けてあげる。

 もしそんな事ができるのなら、いくらでも。


 二人の間に何があったのか分からないけれど、いつかはわだかまりが消えますように。


「志鶴と一緒にいると、優しい気持ちになれるな」

 圭吾さんは何かを振り払うように頭を振った。

「行こうか」


 わたしはうなずいた。


「今日の帰りは迎えに来るからね」

「はい。でも、たぶん自分で帰れると思います」


 昨日、家の近くのバス停を教えてもらっている。学校のバス停は、校門を出たらすぐに見つかるだろう。


「僕もそう思うよ。でも明日からね」

 宥めすかすような言い方だ。


 わたし、そんなに頼りなく見えるのかなぁ。


「大丈夫ですよ。今まで何でも一人でやってきましたから」

 すると圭吾さんは、一瞬ものすごく嫌そうな顔をした。

「その話はまた今度。今日は仕事の予定を入れていないから、時間があるんだ。僕につき合ってくれない?」

 頼み込むように言われて嫌と言えるはずがない。

『分かりました』と言うと、圭吾さんはホッとしたようだった。

 二階まで来ると廊下の端で、

「この先が二年生の教室だよ」

 と言われた。

「教室まで付き添ってほしい?」

 わたしは急いで首を横に振った。

「だろうね」

 圭吾さんは苦笑い。

「教室に行ったら、黒板のところに座席表が張ってあるはずだから」

「分かりました」

「席に着いたらメールして」

「はい。じゃ、行ってきます」

 わたしは圭吾さんにペこりと頭を下げて、教室に向かった。


 B組……B組……っと、あった。


 さりげない顔で、見知らぬ人達に『おはよう』と言いながら教室に入る。

 圭吾さんが言った通り、黒板に座席表が張ってあって、数人の生徒が席を確かめていた。

 わたしも見ようとすると、一人の女の子が『名前は?』と聞く。


「三田です」

「三田さんは――窓側の列のぉ……前から五番目」

「ありがとう」


 出だしとしては悪くない。


 元の学校でもそれほど仲のいい友達がいた訳じゃないもの。ここでも上手くやって行けるだろう。

 わたしは席につくと、携帯電話を取り出した。

『席は見つかりました。困っている事はありません』


 圭吾さんに送信――っと。


 すぐに返信が来た。

『よかった。じゃ、また後でね。帰りは駐車場で待っている』


 はいはい。


「おっはよー」

 元気な声と共に、隣の席に誰かが座った。

『おはよう』と言って横を見て、驚いた。

 茶髪のド派手な女の子が、興味津々といった感じでわたしを見ている。


 そ……それ、つけまつげ?

 目の色がやたらに薄いのは、カラーコンタクト入れてるから?


「あなたさ、羽竜本家に来た人でしょ?」

「そう……だけど?」

「やっぱり! さっき本家の圭吾さんといるの見たんだ」

「ええっ! マジで?」

 黒板のところにいた女の子達が、駆け寄ってきた。

「先週、お買い物してたでしょ?」


 う、うん。


「うちのお母さんが見たって」

「噂、ホントだったんだ」

「同い年だったの? ビックリ!」


 ちょっと待って!

 どうなってるの?


「こら~、お前ら遊んでいないで座れ」

 呑気な叱り方で先生が教室に入ってきた。先生は白髪混じりの髪の男の先生だ。

「おっ! 滝田たきた、またお前の担任か」

「小次郎ちゃん、よろしくね」

 隣の席の女の子が先生に手を振る。

「あだ名で呼ぶな。佐々木先生と呼ばんか。相変わらず化粧濃いな。たまにはノーメイクで来てみろ」


 他の生徒がどっと笑う。


 隣に目をやると、滝田さんがピースサインをした。


 何だか波瀾万丈の予感。

 わたし、集団に埋没するのは無理みたい。



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