黒い影2
圭吾さんが連れて行ってくれたのは、小路を入った所にあるレトロな感じの古いカフェだった。
色褪せた木製のドアを開けると、ベルの音がカランカランと鳴った。
「あら! 珍しい。圭吾ちゃんじゃないの」
カウンターの中にいたママさんが言う。
圭吾ちゃん?
危うく吹き出しそうになった。
「こんにちは。ストロベリーパフェできる?」
「もちろんよ。入って」
わたし達は中に入って窓際の席に座った。
「パフェ、二つ?」
お水を持って来たママさんが訊く。貴子伯母様より、もう少し年上だろうか。親しげではあるけれど、必要以上に踏み込んでは来ない――そんな印象を受けた。
「一つだよ。僕はコーヒーを」
「大人ぶって、つまらない子になったわね」
「成人式はもう済ませたからね。この子は志鶴。うちにいる従妹だよ」
「こんにちは」
慌てて挨拶をした。
圭吾さんが、誰かにわたしを紹介するのは珍しい。
「いらっしゃい。じゃ、この子が噂のお姫様なんだ」
「そう。どんな噂か知らないけどね」
「圭吾ちゃんが、きれいな女の子をお屋敷に閉じ込めてるって聞いたわよ」
「それじゃ犯罪だ。学校には行かせてるよ」
圭吾さんは苦笑した。
「安心したわ。ストロベリーパフェとコーヒーね」
ママさんは、カウンターの中へ戻って行った。
「昔なじみ?」
「小学生の頃からのね。その頃は僕もパフェを食べてた」
小学生の圭吾さんって、どんなだったのかな。
「志鶴と一緒に育てばよかったと思うことがあるよ」
圭吾さんが言う。
「きっとベタ甘に甘やかしてた。一緒にここでパフェを食べてた。手をつないで小学校に連れて行った。受験勉強を見てやって、連れて来る男友達を蹴散らしてた」
わたしは笑った。
「いつも似たような事してるじゃない」
「でも、たくさんの時間を無駄にした。もっと一緒にいられたかもしれないのに」
「時間は戻せないわ。それに一緒に育ってたら恋人にはなれなかったかも」
「それは言えてるな。今でも兄貴扱いされて苦労してるんだから」
「ちゃんと恋人だと思ってる」
圭吾さんは何も言わなかったけど、疑わしそうな顔をしてた。
もう。ホントだってば!
しばらくして運ばれてきたストロベリーパフェは、本当に大きかった。
でも一口食べると、クリームがあっさりしていてとっても美味しい。
「おいしい!」
「だろ?」
わたしはいつも家でやるように、パフェを大きくすくって圭吾さんに差し出した。
圭吾さんは一口で食べると、『昔と変わらないな』って言った。
「ねえ圭吾さん、昨日の黒い紙人形の事だけど……」
「気にしなくていいよ。あれはただの脅しだ。実害を加える事はできない」
「でも、誰かがわたしに嫌がらせをしているのよね」
「目的がよく分からないんだ。この土地の者じゃない事は確かで、そうすると、ここに来る前から志鶴を知っている人間ってことになる」
「ここに来て半年になるのよ。今まで何でもなかったのに」
「居場所が分からなかっただけかもしれない。羽竜の土地は霊力が強いから。でもほら、修学旅行で外へ出ただろう?」
あっ……
「電話が変だって言われたのは、その後だったよね?」
「わたし、旅行先で知らない人に『電話落としましたよ』って手渡されたわ」
「知らない人だった?」
「うん。知らないお婆さんだった。でも……」
「何?」
「美幸が『あの人顔が二つついてる』って気味悪がってた」




