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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第3話 魔女とわたしの黒魔術編

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黒い影1

 圭吾さんの気持ちがつかめない。


『怖いから、しばらくの間圭吾さんと寝たい』って言ったら、すごく嬉しそうで。ここしばらくの不機嫌さはどこへ行ったの?――ってくらい、圭吾さんは上機嫌になった。

 彩名さんが『どんな魔法を使ったの?』ってわたしに耳打ちしたほど。


 ああ……これは、ひょっとして、今まで圭吾さんがご機嫌斜めだった原因は、わたしだった、とか?


「志鶴って『忙しいならいいわ』ってすぐ身を引いちゃうでしょ?」

 友達の亜由美に言われた。

「圭吾さんは甘えたり、むくれたりしてほしかったんじゃないの?」


 そうなの?


 『つまらない』とか『寂しい』って言ってほしかったってこと?


「お仕事の邪魔しちゃいけないと思ったの……」

「誰に対してもだけど、あんたの遠慮ぶりは行きすぎよ」

 亜由美の言葉は耳に痛い。

「それじゃ手を差し延べられないでしょ? 誰かに支えてもらうのは、悪い事じゃないのよ。あんたも人を支えてやればそれでいいの」




 放課後、携帯電話を買い替えるために圭吾さんが迎えに来た。

 一緒にショップに行き、わたしが目についた物を適当に選ぼうとしたら、圭吾さんが顔をしかめた。


「それでいいの?」

「電話とメールができればいいし」

「じゃ、僕が選んでも構わないね?」


 結局、わたしが聞かれたのは好みの色だけで、後は全部圭吾さんが決めてしまった。


 ちょっとムッとした。

 わたしには選ぶ権利もないの?


 データを移してもらってショップを出ると、圭吾さんはわたしの方を真っすぐに見た。


「気に入らないかい?」


 首を横に振った。


 気に入らない訳じゃない。たぶん、わたしが先に選ぼうとした物よりずっと好き。


「志鶴は自分の物となると、どうでもいいように選ぶね」

「そう?」

「これが誰かへのプレゼントだったら、もっと真剣に選ぶだろう?」

「そうかも」

「僕の事も、適当に選んだんじゃないかと心配になるよ」


 圭吾さんはため息をついた。


「そんな事ない!」


 慌てて言うと、圭吾さんは笑った。


「まあ、僕の事は適当であろうとなかろうと、側にいてくれるなら文句はないんだけどね。もっと自分のこと大切にしなさい」


 亜由美の言う通りだ。

 圭吾さんは、わたしがもっと心を開くのを待っている。


「さて、帰ろうか?」


 『もう?』という言葉が心に浮かんだ。


「圭吾さん」


 『もっと一緒にいてほしい』


「ん? 何?」

「もう帰らなきゃダメ?」

「どうだろう」

 圭吾さんは微笑みながら目を伏せた。

「僕は忙しいかもしれないよ?」


 言葉に詰まる。


 何かを望むことには、勇気がいる。

 最初から何も望まなければ、誰にも期待しなければいい。そうすれば、失望することもない。

 でも、わたしのそんな態度が、圭吾さんを失望させているのだとしたら――?


「今日は……」

 ためらう心を押さえつけて、わたしは早口で言った。自分の望みを。

「今は、もっとわたしといて」

「よく言った」

 圭吾さんはにっこり笑って、わたしの頭を撫でた。

「特大のチョコレートパフェをおごらせてもらうよ」

「今日はストロベリーの気分」

「その調子だ」



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