不安と心配3
何だかとてつもない勘違いをされていたことに驚いた。
最近、圭吾さんがイライラしてたのは確かだけど、そんなことで圭吾さんを嫌いになるほどわたし、子供っぽくない――あれ?
ひょっとして、みんなに子供っぽく思われてる?
まさか、ね。うん……な、なんとなく微妙だわ……
夕食の後、圭吾さんは、少し仕事があるから二時間くらい時間が欲しいと言った。
そうなると時間が遅くなるので、明日の学校の準備を終えてから三階に上がった。
ドアが開いていたので、入口から『圭吾さん』って声をかけた。
返事はない。
わたしは中に入ってドアを閉めた。
仕事部屋をのぞくと、圭吾さんが机にひじをついて片手で顎を支えながら考え事をしている。
きれいな横顔。
でも、笑ってる顔が見たいな。
「圭吾さん」
小さな声で呼ぶ。
圭吾さんがわたしの方を見て、口元をゆっくりと綻ばせた。
「おいで志鶴」
わたしは圭吾さんの側まで行くと、首に抱きついた。
「大好き」
圭吾さんはわたしの体を抱きしめた後、ひょいっと膝の上に座らせた。
「人騒がせなお姫様」
圭吾さんはわたしの鼻をつまんで言った。
「どうして、お父さんの仕事仲間に会いたくなったんだい?」
「親父と連絡がとれないの。かれこれ二週間。心配しすぎだとは思うんだけど……」
「その人なら何か分かるの?」
「その人達よ。二人いるんだ。表立った連絡ルートが使えなくても、裏のルートがあるって聞いた事あるの」
わたしは村瀬さんと山口さんの名刺を圭吾さんに見せた。
「これ、データースキャンしてもいい?」
「どうぞ」
「そして――と、来月の連休は? 土日月――三連休だね」
「金曜日が臨時休校なの」
「うーん、じゃ木曜日に学校が終わってから出発しよう。家の鍵は持っているんだね?」
「うん」
「それまでにお父さんから連絡があっても行くかい?」
「行きたいな。圭吾さんさえよければ」
「かまわないよ」
「それとね」
「何?」
「わたしのケータイが変だって、美幸が言うの。圭吾さんに見てもらえって」
友達の美幸は羽竜の親戚で、普通の人が見えないモノも見える。
「見せて」
わたしはポケットから携帯電話を取り出して圭吾さんに渡した。
圭吾さんは電話の裏表をじっと見つめ、それからわたしに戻した。
「天気予報にかけてくれる?」
天気予報?
わたしは言われた通り天気予報に電話をかけた。
ケータイから、明日の天気をしゃべる、少し甲高い声が流れる。
「切っていいよ。あの娘はホントに目がいいな」
「これ何か変?」
「何かのまじないがかかってる。場所を追跡するような。電話機を変えた方がいいな」
「なんで? 誰がそんなことを?」
「分からないね。気付いたのは最近?」
「えーとね」
少し口ごもってしまう。
「十日くらい前かな……」
「何だって? どうしてすぐ言わない――ああ、悪い。最近の僕は相談しやすい相手じゃなかったからね」
圭吾さんはそう言ってわたしを抱きしめた。
「自分の感情をうまくコントロールできない。いっぱしの大人なつもりでいたけど、まだまだガキだ」
「それ以上大人にならないでいいわよ」
わたしは口をとがらせて言った。
「志鶴の分も大人でいなきゃならないんだよ。志鶴がそのままでいいようにね」
「守られるのは嬉しいけど、圭吾さんだけが大変じゃない」
「僕は別に気にならないけど、そうかもね」
「わたしは気になる」
「そう? じゃ、ほんの少し僕を楽にしてくれる?」
「いいわよ」
圭吾さんはわたしにキスをした。
息が切れるような深い、長いキス。
「今夜は一緒に寝てくれる?」
「うん」
そんな事で圭吾さんの気が休まるなら、いくらでも一緒にいてあげる。




