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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
おまけの圭吾編 2

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嵐の夜は君と

「圭吾さん、圭吾さん」


 志鶴の声がする。


「何? どうした?」


 眠っていた僕は顔をしかめて、目をしばたいた。


 真夜中の暗がりの中、志鶴がベッド脇に立っている。


「一緒に寝ていい?」


 一緒に?


 半分寝ぼけた頭を何とか回転させる。


 ああそうか、分かった。


「おいで」


 掛け布団を軽く持ち上げると、冷たい空気と共に志鶴が横にすべりこんできた。

 志鶴は居心地のいい体勢になるまでモゾモゾと身動きし、僕の胸に顔を埋めた。


「雷か?」


 志鶴は雷が大嫌いだ。


「うん。まだ遠いけど」


 僕には風の音しか聞こえないけど。人間って嫌いなものには敏感だからな。


 腕をまわしてそっと抱きしめると、満足そうなため息が聞こえた。

 僕の耳にも遠雷が聞こえてきた。志鶴が身震いしながら、身を擦り寄せてくる。


 時々


 志鶴と一緒に育てばよかったと思う事がある。


 まあ、もしそうだったら志鶴の事は妹としか思えなくなっていただろうが。


 でも、


 いつでも側にいてあげられただろう。

 雷を怖がる事なんてなくなっていただろう。


 時々


 何でも一人でやろうと頑張る志鶴を見ていると、胸が痛くなる。


 しっかり者の顔と、驚くほど幼さの残る純粋さが混在して、どこか壊れやすそうな脆さを感じるんだ。


 愛してるよ

 君を愛してる

 だから僕を愛して

 君を幸せにできる力を僕にくれ


「圭吾さん、起きてる?」

 志鶴が僕の胸で言う。

「起きてる」

「大好き」

「知っているよ」


 クスクス笑いが聞こえる。


「それだけ?」

「僕も志鶴が大好きだ――これでいい?」

「じゃあ、キスしてもいい?」

「どうぞ、ご自由に。僕は君のものだからね」


 志鶴はモゾモゾと身動きすると、僕の頭を引き寄せて口づけした。


 あっけないほど軽いキス。

 志鶴がいつも僕にくれるあどけないキス。


「わたし、ちゃんと圭吾さんを幸せにできてる?」

「できてるよ」


 君だけがその力を持っているんだ。

 君の笑顔だけが。



 急に激しい雨が、窓をたたき付けるように降ってきた。

 カーテン越しに空が光り、二拍おいて雷鳴が続く。

 小さな悲鳴をあげて、志鶴が僕にしがみつく。

 僕は静かに体の位置を変えて、半ば志鶴に覆いかぶさるような格好になった。


 それからそっと

 本当にそっと

 志鶴の悲鳴を飲み込むように口づけをした。


 足りない


 もっと だ


 もっと君に近づきたい


 僕は志鶴の顎に親指をあてて小さく唇を開かせた。


「僕を許して」


 キスが深まった途端、志鶴が体を強張らせたのが分かった。

 身を振りほどこうとしている。

 雷より大きく、僕の中で心臓が鳴っている。


 落ち着け


 落ち着け


 落ち着け


 僕が焦れば志鶴は失神しかねない。


 決して乱暴ではなかったが、しっかりと僕に押さえ付けられた志鶴はなすすべなく僕のキスを受け入れた。


 しっとりとした大人のキスを。

 何度も何度も繰り返し。


 そのまま全てを奪ってしまいたかった。

 でもそうするには、小さく泣いている志鶴に無理強いするには、僕は志鶴を愛しすぎている。


「ゴメン。少しやり過ぎた」

 僕は泣いている志鶴の体を胸に抱き寄せた。

「少し? あれで少しなの?」

 志鶴は涙声で言った。

 僕は少しおかしくなって微笑んだ。

「少しだよ。嫌だった?」

「嫌じゃなかったけど、どうしていいか分からなくて怖くなったの。圭吾さんを幸せにしてあげたいのに」

「幸せだよ」

「本当に?」

「志鶴」

「なぁに?」

「男と女が愛し合うって、どういうことか分かってる?」

「それくらい知ってるわよ。もう高校生なんだから」


 怪しいもんだ。


「じゃあもう泣き止んで、少しばかり熱くなりすぎた僕を許して」

「許してあげる」

「もう雷も遠くなったみたいだよ。このままここでお休み」



 そして僕を幸せにしてくれ。


 君の安らかな寝顔で。




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