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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第2話 宿題は難題な夏休み編

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薄闇の中で 4

 退院の日。


 最後の診察を終えて帰り支度をしていると、意外な人の訪問を受けた。


「初音さん?」

「こんにちは。ちょっとお話できる?」

「どうぞ」


 初音さんは病室に入って来て、辺りを見回した。


「いつも一緒にいる男性は?」

「圭吾さん? 今、退院の手続きに行ってます。どうぞ座って」


 わたしはベッド脇の椅子を勧めた。


「よかった。あの方、苦手なの。かなり霊的なパワーの強い方だから、そばにいると疲れてしまって」


 ふうん そういうものなんだ。


「東京に帰る前に、助けてもらったお礼をあなたに言いたかったの。ありがとうございました」


 初音さんは頭を下げた。


「どういたしまして。でも、本当にこれでよかったんですか?」

「タローの事ね」

「タローって呼んでたんですか?」

「昔飼ってた犬の名前なの」


 初音さんは、懐かしむように微笑んだ。


「初めて会った時、名前をあげたらわたしを守ってくれるって言われたの。まだ子供だったから、他に思いつかなくて――そうね、タローと一緒に消えてしまいたかった気持ちも確かにあるわ」

「あの狐は、タローは、初音さんが死ぬのは嫌だって……」

「そうだと思った。あなたはタローの最期を見届けたと聞いたのだけれど」

「ええ」

「聞かせてもらっていい?」


 わたしは、薄闇の中で獣に聞いた話をした。


 どうか


 どうか、あの深い愛情が初音さんに伝わりますように。


 わたしは、泣かずに話そうと頑張った。

 泣く資格があるのは、わたしではない。あの狐の命を悼む事ができるのは、長い年月を共に生きてきた初音さんだけだ。


「さみしくないって言ってた。初音さんの名前を抱いていくから」


 初音さんは泣いていた。

 ポロポロ泣いて、そして微笑んでいた。


「これでよかったのかもしれないわ」

 初音さんが言った。

「ずっと一緒にいられたとしても、いつかはわたしは死んでしまうでしょう? タローには受け入れられなかったでしょうから」



 しばらくして戻ってきた圭吾さんは、開け放した病室の入口で立ち止まった。


 わたしの顔を見るなり、表情が厳しくなる。

 わたしは慌てて首を横に振った。


「圭吾さん、違うの。悲しい話をしてたの。でもつらくはないわ」

「本当に?」


 圭吾さんは近づいてくると、わたしと並んでベッドに腰掛けた。


「もう行くわ。話してくれてありがとう」


 初音さんが立ち上がる。


「テレビの仕事はやめた方がいい」

 圭吾さんが言った。

「興味本位で、危険な場所でもおかまいなしだ。あなたの能力なら、むしろ占い師向きだと思うが」

「ご忠告、有り難く受け取るわ。そうね、それもいいかも」



 初音さんが去った後、わたしは圭吾さんの肩に頭を乗せた。


「圭吾さんって過保護」

「そう? 彼女と何の話をしてたの?」

「帰ったら教えてあげる。だから家に連れて帰って。圭吾さんの部屋に泊めて」


 圭吾さんは、わたしの肩を抱いて低く笑った。


「一緒に寝てくれる約束だしね」




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