実践デート 4
何か違う。
やっと二人っきりになって、約束通り服や靴を買ってもらった。
選ぶのは楽しかったし、圭吾さんも楽しんでた。
そのままお店で新しい服に着替えて、『かわいい』と圭吾さんに言われ、嬉しいけど、やっぱり『彼氏』というより『お兄さん』といるみたい。
レストランでおいしいパスタ食べて、
学校の話をして
友達の話をして
圭吾さんは微笑んで聞いてくれるけど、『彼氏』って自分の話はしないもの?
「どうした?」
「んーん、別になにも」
「浮かない顔してる」
わたしは、小さくため息をついた。
「わたし達、兄妹にしか見えないかもって思って」
「他人からどう見えるか重要?」
「そう言われるとなぁ……重要ではないけど」
「志鶴はすぐ僕を『兄』の枠に入れたがるね」
圭吾さんはスッと目を伏せた。
「僕の恋人になるのは、それほど考えられないこと?」
「圭吾さんがどうってことじゃないの。誰かの恋人になってる自分が想像もつかないだけ」
デートも初めてなんだから。
「でもね、いつかそうなるとしたら相手は圭吾さん以外に考えられない」
「本気だろうね」
えっ? 何が?
キョトンとしていると、思いがけず射抜くような強い眼差しで見返された。
「恋人になるとしたら僕、以外は考えられないって言ったよ」
「本気……だけど?」
だから今、デートして頑張ってるんじゃないの。
「志鶴は僕が好き?」
「うん」
「ずっと側にいてくれる?」
「そのつもりだけど?」
「ならいい。いっその事、兄貴じゃないと分からせようかと思ったけど、それなら今はまだいい」
わたし達、何について話し合ってるんだろ?
圭吾さんには見えていて、わたしには見えないものの話をしているみたい。
「分からないならいいんだ」
圭吾さんは苦笑いした。
迷路に入り込んだような不思議な気持ちで食事を終えた。
「夜景でも見に行ってみる?」
「うん」
たぶん、一般的なデートコースなんだろう。
高台の展望台のある公園までドライブすると、駐車場には車が数台停まっていて、わたしたちも他のカップルみたいに手をつないで散歩した。
圭吾さんはここに優月さんと来た事ある?
思わず訊きそうになり、唇を噛んだ。
いやだ。
まるでヤキモチ妬いてるみたい。
ううん。
妬いてるんだ。
初めての感情にうろたえた。
だいじょうぶ、
今の圭吾さんはわたしだけのものだもの。
だいじょうぶ。
圭吾さんはわたしを好きだもの。
自分に言い聞かせても不安になって、圭吾さんの腕にしがみついた。
「志鶴?」
「帰りたい」
小さな声で言った。声が震えるのを止められなかった。
圭吾さんは何も訊かずに、わたしを車に乗せた。でも、後が怖い。
家に帰ると、容子オバサンと梓さんがいて、『高校生がこんな時間まで出歩いて』ってイヤミを言った。
このままずっといびられていてもいいと思ったのに
「僕が保護者なんだから構わないでしょう」
圭吾さんはあっさり一蹴してわたしを連れ出した。
ああ、このまま自分の部屋に逃げ込みたい。
とりあえず部屋に入り、制服やかばんをしまい、『ちょっと疲れちゃったみたい』って言ってみた。
「僕の部屋に泊まる約束だよ」
部屋の真ん中で立っていた圭吾さんが念をおす。
ダメか……
優しいけれど有無を言わさぬ強引さで、圭吾さんはわたしの手を引いて三階の階段を上った。
わたし、牛? 牛なの? 市場に引かれて行く子牛の気分よ。
「先にシャワー浴びておいで」
うーん……ここはやっぱり、眠い眠い作戦でごまかすか。寝ちゃえば何も訊かれない。
髪を洗いながら、頭をひねり続けた。
でも作戦実行するまでもなく、シャワーの後、圭吾さんに濡れた髪を乾かしてもらっているうちに、わたしの頭は何度もカクンと落ちた。
生まれて初めてのデートで、思ったより緊張していたのかも。
「僕もシャワー浴びてくるかな」
圭吾さんが、わたしの顔を覗き込みながら言った。
「はい」
「疲れたならもうお休み」
よしっ! やった!
「聞き出すのは明日にするよ」
圭吾さんは、にこやかな笑みを浮かべた。




