実践デート 3
「〈鬼の首塚〉って本当に鬼の首が埋まってるの?」
テレビ局の人達が入院している病院へ向かう車の中で、圭吾さんに訊いた。
「実際は違うよ。古い地霊が封じられている。神社の龍神より古いものだ」
「悪い霊?」
「善くも悪くもないよ。ただ古いものはたいていそうだが、生き物の力を取り込んで大きくなろうとするんだ。心に弱い部分があると引き込まれてしまう。だから封じている」
「引き込まれたらずっと眠ったまま?」
「普通の人間はすぐに目が覚めるよ。問題は中途半端に霊能力のある人間で、能力が首塚の地霊に癒着しやすい。そのまま同化してしまう事もある。そうなれば助けられない」
『助けられない』とどうなるんだろ。
聞くのはためらわれた。
「圭吾さんは大きなものを背負っているのね」
「ああ。だから志鶴は僕を助けてくれ」
「どうやって?」
「ずっと僕の側にいて」
「分かった」
いるわ。
ずっと ずーっと 圭吾さんの側にいる。
病院に着いて、お巡りさん二人と入院病棟へ向かった。
圭吾さんは病室へ入って行ったけど、わたしは缶コーヒーを一本渡されて、一人で看護士詰め所の前の椅子に座らされた。
つまんない。
缶コーヒーをちびちびと飲みながら心の中でぼやく。
お仕事だから仕方ないけど、確かに後で埋め合わせしてもらわなきゃ割に合わないわ。
缶コーヒーを飲み終えるとすることもなく、ぼんやりと目の前を行き交う人達を眺めた。
遅いなぁ 圭吾さん
わたしは後ろの壁にもたれかかって目を閉じた。
**********
――志鶴
暖かい手がわたしの頬を撫でる。
「志鶴、起きて」
いつの間にか、うとうとしていたらしい。目を開けると圭吾さんがいて、わたしは両手を伸ばして圭吾さんの首に抱きついた。
「お仕事終わった?」
「今日のところはね。ゴメンね、飽きただろう」
「うん。ちゃんと埋め合わせしてね」
――って言ってから
ここ家じゃなかったよな~と気付いた。
圭吾さんの肩越しにお巡りさんと目が合った。
えっ? あら
どうしてそっちが赤面するの?
「そいつを見るな」
圭吾さんが不機嫌そうに言って、わたしを自分の体で隠してしまった。
「じゃ、もう行くから」
圭吾さんがお巡りさんに言う。
「明日また来てみるよ」
「おい圭吾、俺には絶対紹介しない気か?」
「必要ないだろ」
「他の兄弟はみんな紹介されてるのに?」
「巧には会わせてないぞ」
「会ったって俺に自慢してた」
「志鶴?」
圭吾さんがわたしをジロッと見下ろす。
「悟くんのお兄さんの巧さんの事?」
「そう」
「悟くんと遊んでる時に偶然に。一度だけ」
「聞いてない」
だって言ってないもの。
「悟が一番自慢してるよ。自分は友達だって」
「悟はいいんだよ。僕から友達になってやってくれって頼んだんだから」
わたし知ってる。
圭吾さんが陰では『友達』じゃなくて『子守』って言ってるの。
「だいたいお前の家には優月が嫁に行くんだからそっちに構え」
「優月ちゃんは兄貴の嫁だろ」
「志鶴は僕の嫁だ。構うな。話しかけるな。見るな」
見るなって……
「噂通りの過保護っぷりだな」
「僕の勝手だろ。それにお前が一番信用ならない」
「なんでだよ。俺は警官だぞ」
「志鶴みたいのがお前のタイプだと思ったけど。素直で従順、子供っぽくて可愛い系――直球ど真ん中だろ?」
あら、また赤面?
図星だったのかな。
「志鶴」
「はい?」
「彼は要、悟の二番目の兄貴だよ。絶対に近づくな」
んー 引ったくりにあった時も?
軽口たたきかけたけど、圭吾さんの剣幕がすごいんでやめておいた。




