実践デート 2
〈鬼の首塚〉は町の北側、小高い丘の上にある。
長い石段を上ると小さな祠があって、その横にしめ繩を巻かれた巨大な岩が立っている。
車は細い舗装道路をくねくねと曲がり、岩の裏側にある広場に出た。
「ここ、車で来れるのね」
「一般車両は通行禁止だよ。石段の下の駐車場までだ」
「わたしたち一般車両じゃないの?」
「呼ばれたんだ」
圭吾さんが示す方を見ると、パトカーが一台停まっている。さらに向こうにマイクロバスも一台。
圭吾さんは車を降りて、ぐるっと助手席の方に回って来た。
圭吾さんは、わたしに車のドアの開け閉めを絶対にさせない。
それが分かっているので、ドアを開けてもらうまでわたしは黙って待っている。
圭吾さんがドアを開け、手を差し出す。
お巡りさんが二人、車から降りるわたしを見ていた。
周囲から見れば、わたし、すごいお嬢様みたいなんだろうな。慣れっこだけど――やっぱ恥ずかしい。
「呼び出して悪い、圭吾」
背の高い方のお巡りさんが言った。
ああ、この人羽竜の血筋だ。
顔立ちがそう。
お巡りさんがこちらをチラッと見たけど、圭吾さんはわたしを紹介しようとはしない。
「どうも」
羽竜のお巡りさんが、わたしに曖昧な挨拶をした。
「こんにちは」
わたしが言ったとたんに『志鶴!』って圭吾さんの険しい声。
はいはい、口きいちゃいけないのね。
圭吾さんが手を差し出して、手をつないだら側に引き寄せられた。
「側にいて。何かおかしいから」
「やっぱり変だと思うか?」
と、お巡りさん。
「引っ張られるような感じだな」
圭吾さんは巨石を見上げながら言った。
「封印の縄の一部がズタズタになってる。で、あっちのマイクロバスの中には意識不明の男女が三人。さっき病院に運んだが、東京のテレビクルーみたいだ」
「意識が戻らないうちに封印はできない。立入禁止にしておけよ」
「立入禁止は簡単だが、意識不明者の女がやっかいなんだよ。霊能者だ。力のほどは不明だが、テレビによく出ている」
「まったく! なんでみんなパワースポット巡りなんてしたがるんだ!」
圭吾さんが忌ま忌ましそうに言った。
「世間の流行らしいぜ」
「まさか病院にも行けって言うんじゃないだろうな」
「その『まさか』だ」
「勘弁してくれよ。僕はデート中だ」
「いまさら? 同居してるなら毎日がデートだろ?」
「だからお前は女にモテないんだよ」
「圭吾さん」
わたしはつないだ手を引っ張った。
「わたしのことなら後回しでいいよ。お仕事でしょ?」
「ダメ」
ダメって……
「今日は志鶴を優先する日だ。君は物分かりがよすぎるよ」
それは嬉しいけど……ねぇ
これは羽竜家の本来のお仕事だなんだよね。
どうしよう。邪魔したいわけじゃないのに。
えーと……彩名さんはなんて言ったっけ?
――そう、おねだりすればいいって
「お仕事の邪魔はしたくないの。だから、後で埋め合わせして、ね?」
圭吾さんは納得できないって顔。
「今日は外でご飯食べたいな」
梓さんたちと顔合わせたくないし。
「最初っからそのつもりだよ」
そうきたか。
「じゃあ、食事の前に服買って。おしゃれしてから行きたい」
「靴も?」
「靴も」
「バッグは?」
う……
「買って」
「それだけでいいの?」
うーん
「新しいゲームソフトで欲しいのあるの」
もう破れかぶれよ。
「買って、一緒に遊んで」
「もう一声」
分かったわよ!
「圭吾さんの部屋に泊めて」
圭吾さんはにんまり笑って「約束忘れるなよ」って言った。
どっちがおねだりしたのか分からないわ、これじゃ。




