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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第2話 宿題は難題な夏休み編

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実践デート 1

 夏休み補習四日目。


 明日で補習も終わり。



 校門のところに一人で立っていると、普段は話しかけてこないような人も話しかけてくる。

「あれ、三田さん? 今日は一人?」

 同じクラスの男の子達だ。

「今日は待ち合わせなの。ごきげんよう」

 この台詞だけで、たいていは『そっか、バイバイ』となる。


 困るのは上級生の男の人達。

「二年のお姫様じゃん。一人? 誰か待ってんの?」

 基本的にこの学校の生徒は品行方正だし、からかっているだけなのは分かってる。怖くはない。


 でも、面倒くさい……


「今日はお迎えなので」


 一応、失礼にならない程度に答える。


「うわっ! しゃべった!」


 しゃべるわよ、馬鹿ね。


「すっげえ、声、初めて聞いた」


 早くどこか行ってよ。

 圭吾さんにはこんなとこ見られたくないんだから。


「しづ姫? 車待ちかい?」


 さとるくんだ。よかった。


「圭吾さんを待ってるの」


 上級生がまた『しゃべってる』って騒ぐ。

 何なのよ!


「先輩方、うちのお姫様をからかわないでもう行って下さい。もうすぐ僕の従兄が迎えに来るし、あいつヤキモチ妬きだから」


 悟くんがそう言うと、上級生達は『そいつはヤバイ』と言いながら帰って行った。


「悟くん、ありがとう。助かった」


 隣のクラスの羽竜悟くんは、圭吾さんの従弟で、わたしが一緒にいても圭吾さんが嫌がらない唯一の男の子。

 友達づきあいするようになったのは、心配性の圭吾さんが悟くんに、わたしの面倒を見てくれって頼んだからだ。でも、きっかけはどうあれ、わたしと悟くんは妙に気が合った。


「圭吾が来るまで一緒にいるよ」

 悟くんは、塀にもたれて空を見上げた。

「いい天気だね。暑くない?」

「うん。平気」

 わたしも悟くんの横で、塀にもたれた。

「わたし、時々『お姫様』って呼ばれるのどうしてかな? 悟くんもそう呼ぶよね」

「しづ姫が来た時、噂になったんだ。貴子伯母様が圭吾の嫁に、どこかの名家のお姫様を連れて来たって。うちの家族は今でも『本家のお姫様』って呼んでるよ。ほかの親戚もそんな感じじゃないかな」

「本当? わたし、昨日は『見栄えのしない子供』って呼ばれたわ」

「容子オババだろ」

 悟くんはニヤッと笑った。

「夕べ、うちのお袋に電話よこして何かがなってた。心配しなくていいよ。うちは全員、うちの兄貴と圭吾が和解したのはしづ姫のおかげだと思ってるから」


 悟くんのお兄さんと圭吾さんは恋人の優月さんをめぐって何年も仲たがいしてた。


「今日は圭吾とお出かけ?」

「デートするの」

「デート?」

「デートして圭吾さんを『彼氏』って思うようにするの」

「まだそんなところでもたついてんの?」

 悟くんは呆れたように言った。

「だって……本当の事言うとね、わたし恋愛とか全然分からないの。どう振る舞っていいのかも分からないし」

「圭吾のことは好きだよね?」

「大好き」

「じゃいいこと教えてあげる」

「なぁに?」

「恋愛における正しい振る舞いについてだ。普段はどんなわがまま言ってもいいけど、二人っきりでキスとかハグする時は圭吾の好きにさせな。怖いからって止めちゃダメだよ」

「でも……」

「圭吾は君を傷つけたりしないよ。信じてるだろ?」

「うん」

「いい子だ。僕ら一族全員のためにも圭吾を幸せにしておいてくれ」

「おおげさね」

「そうでもないよ。結局のところ、羽竜の家はこの地を守るのが本来の仕事だ。おさの圭吾が不安定じゃ話にならない」


 そう言ってから、悟くんは道路に向かって手を振った。


「デート相手が来たみたいだよ」


 車が停まって、圭吾さんが降りてきた。


「遅いぞ圭吾」

 悟くんが言う。

「お姫様がナンパされてたからボディーガードしてた」

「すまん、ありがとう――志鶴、乗って」

 圭吾さんが助手席のドアを開けてくれた。

「悟、お前いつ出発するんだ?」

「あさって。明日まで講習あるから」

「悟くん、どこか行くの?」

「パリまでね。十日間くらいだから、帰って来たらまた遊ぼ」


 悟くんの恋人はフランスにいる。

 会いに行くのかな。


「気をつけてね」

「ありがとう。じゃお二人さん、デート楽しんできて」


 悟くんは手を振って歩いて行った。


 圭吾さんが助手席のドアを閉め、運転席に回り込む。


「シートベルト締めた? 悪いけど仕事絡みであと一カ所寄っていい?」

「どうぞ」


 車が走り出した。


「お仕事ってどこ?」

「〈鬼の首塚〉」


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