モンスター母子 4
夕食の時は最悪で、
わたしの隣は圭吾さんっていうのはいつも通りなんだけど、彩名さんはいないし、向かい側に容子オバサンと梓さんが座ってる。
なんだか見張られてるみたい。
ご飯を食べながら、みんなの話を上の空で聞いていた。
容子オバサンが、何かしゃべり続けている。
政治なんて興味ないわ。
梓さんが、しきりに圭吾さんに話しかける。
何とかフィルのコンサート?
行こうと思った事もない。
あ~、つまんない。
後で美幸に電話しようかな。
あら? 急に静かになった
げっ! 皆さん、わたしを見てる?
何? 何? 何なの?
「志鶴?」
「うわっ! はいっ! 何っ?」
うろたえて回りをキョロキョロすると、圭吾さんの手が伸びてきて、わたしの顔を自分の方に向けた。
「さっきから僕が呼んでいる」
「ごめんなさい。ちょっと考え事を……」
圭吾さんと目が合った途端、昼間、膝の上に抱き上げられた記憶がどっとよみがえって、わたしは真っ赤になって目を伏せた。
「本当にシャイだな」
圭吾さんがため息混じりにつぶやいた。
「落ち着きがないこと」
容子オバサンが嫌みったらしく言う。
「僕が悪いんですよ。さっきちょっと悪ふざけが過ぎたようだ」
「悪ふざけ?」
「少しばかり親愛の情を示したんですが、志鶴には刺激が強すぎたみたいですね」
容子オバサンは咳ばらいをした。
「圭吾さんのような方には、志鶴さんでは物足りないのではなくて?」
「そうでもないですよ。思い通りにならないのが、こんなに楽しいと思ったことはありません。口説きがいがある」
わたし、く……口説かれてる訳?
「まあ、結婚する頃にはもう少し大人になるでしょう」
「目新しさなんてすぐに薄れますよ。そういう純真なお嬢さんはそっとしておいておあげなさい。それより、うちの梓との事を真剣に考えてもらいたいわ」
「その話は、毎年真剣にお断りしているはずですが?」
「うちの梓のどこが気にいらないっていうの?」
「申し訳ないが、全く抱く気になれません」
そこ大事だけど、そんなにはっきり言わなくても……
「ひどい……ひどいわ、圭吾さん」
梓さんが立ち上がった。
確かにちょっと言い過ぎだったよね。
「わたしがこの子より劣るとおっしゃるのね? 屈辱だわ。こんな色気のカケラもないような女子高生に負けるだなんて!」
ちょっと待て!
確かに色気はないけど、他人に言われたくはないわっ!
「そうですよ」
容子オバサンがさらにたたみかける。
「いくらお母様の、貴子さんの言い付けだからって、こんな見栄えのしない子供と本気で結婚する気なの、圭吾さん?」
見栄えしなくて悪かったわねっ!
「お二人とも」
圭吾さんがうんざりしたように言った。
「梓さんは、僕以外の男には充分魅力的です。それから、志鶴を選んだのは僕の意志です」
「どうしてその子なのよ! どうしてわたしじゃダメなの?」
梓さんは感情的になって、声を荒げた。
「志鶴を愛してるから」
圭吾さんはさらっと答えた。
梓さんはワッと泣き出して出て行き、
容子オバサンは、
「わたしは絶対に羽竜本家の嫁としては認めませんからね!」
と、捨て台詞を残して梓さんの後を追い、
愛してると言われたわたしは、頭が真っ白になって、固まっていた。
「毎年こうだから気にするな」
圭吾さんが言った。
「圭吾さん?」
「ん?」
「この修羅場が二週間続くの?」
「そう思った方がいいよ」
「あの人達、来年も来る?」
「たぶんね」
「結婚、考え直していい?」
「くだらない事言ってないで、ご飯を食べてしまいなさい」




