モンスター母子 3
「彩名さん居留守なんてずるい」
わたしは口を尖らせながら、アトリエでお仕事をしていた彩名さんに事の次第を話した。
「ごめんなさいね。あの人達には近寄らないようにしているの」
「本当に、二週間もここにこもる気ですか?」
「去年もやったわ。梓とはどうしても反りが合わなくて。子供の頃ケンカして、ハサミで髪をバッサリ切られて以来ね」
わっ! お上品に見えて、案外過激?
「それに圭吾が不機嫌になるから、家中ピリピリするし。何とかならないのかしら、あの仏頂面」
「僕のいないところで志鶴に余計な事を吹き込むなよ」
後ろから圭吾さんの声。
どこから入ってきたかはあまり考えたくない。
わたしの正面側がドアだから。
「たまには、ドアから入ってきてもかまわなくってよ」
彩名さんがからかうように言った。
「気にするな」
圭吾さんは空いてる椅子を引き寄せ、わたしの横に座った。
「まったく! 相変わらずひどかったよ」
そう言いながら、テーブルの上のコーヒーを一口飲んで、顔をしかめる。
「甘い」
だってそれ わたしのだもの。
「容子伯母さんときたら、梓の売り込みに必死だよ」
「まあ、そう。売り込まれても、あの性格じゃあ……ねぇ」
彩名さんは苦笑しながら、圭吾さんの前に別のコーヒーカップを置いた。
「梓は梓で、形振り構わない。そのうち裸で僕の部屋にいても不思議じゃないね」
圭吾さんは、すごくイライラしてる。
「わたし、圭吾さんの部屋で梓さんに鉢合わせしたらどうすればいいの?」
かなり真面目に訊いたんだけど、圭吾さんがコーヒーにむせた。
「たとえ裸の梓と部屋にいても、僕は無実だ。志鶴は僕の部屋に居座って梓を追い出してくれ」
「分かった」
やはり真面目に返事をしたんだけど、彩名さんが吹き出した。
わたし、何か変な事言った?
「わたしたち予定通りデートできる? 二週間は無理?」
心配になって訊くと、『できるよ』って圭吾さんがにっこり笑った。
よかった。
いつもの圭吾さんだ。
「志鶴ちゃんの前じゃ借りてきた猫ね」
彩名さんが言った。
「猫より虎に近いけれど」
「黙れ、彩名」
「いいなぁ、二人とも仲良しで」
一人っ子のわたしは、彩名さんと圭吾さんの言い合いがうらやましかった。
圭吾さんがすぐにわたしの肩を抱き寄せ、彩名さんは優しく微笑んで
「志鶴ちゃんも入れて三人で仲良しよ」
って言った。
「そう、これからもずっとね」
圭吾さんがわたしの頭のてっぺんにキスをした。
「彩名さんも圭吾さんも、大好き」
「彩名と同列?」
圭吾さんが不満そうに言った。
「僕は兄貴からデート相手に昇格したんだと思ったのに」
不満そうな圭吾さんがなんだかおかしくて、ふざけて圭吾さんの首に両手をのばして
「圭吾さん、だぁーい好き」
って言った。
圭吾さんが少し身をかがめて、わたしの体が揺らいで、何がおきたのか分からないうちに圭吾さんのひざの上に抱き上げられていた。
目の前に、キスできそうなくらい間近に、圭吾さんの整った顔があって、恥ずかしくて圭吾さんの肩に顔を隠した。
「デートのプランは決まった?」
わたしの耳元で圭吾さんがささやく。
耳に唇が触れたのは、わざと。
絶対にわざと。
心臓が止まりそう。
「志鶴?」
わたしは顔を隠したまま首を横に振って、『圭吾さんが決めて』って小さな声で言うのがやっとだった。




