夏休み計画 2
補習の後、友達二人とアイスクリームを食べに行った。
滝田美幸と大野亜由美。
二人とも羽竜家の遠縁で、この町に来てから友達になった。
「えっ? あんたって圭吾さんと寝てるの?」
美幸は、いつでも核心をそのまま突いてくる。難点は、しゃべり方が、はっきりくっきり声が大きいところ。
「人聞き悪いこと言わないでよ。圭吾さんの部屋に泊っただけだってば。ベッドは別!」
たまたま今朝は一緒のベッドだったけど
「で、何にもなしの清い関係?」
「ダメかな?」
「ダメじゃないけど」
と、いつも冷静でクールな亜由美。
「不自然よね」
やっぱり?
「じゃあ、自分のとこに部屋を移せばってお誘いは――つまり……そういう関係になろうってお誘いだと思う?」
「えっ? そうやって言われたの?」
だから、声でかいって美幸!
「本人に確かめたらいいんじゃない?」
ストロベリーアイスをなめながら亜由美が言う。
「ただ志鶴に目の届くところにいつもいてほしいだけかも。圭吾さんは余裕があるから、いつまでも待てると思うけど」
「余裕? 何の?」
「圭吾さんに外堀しっかり埋められてるのに気づかないの? 圭吾さんは、あんたと結婚するって周囲にはっきり意思表示してる。他の男の子は誰も近づかないでしょ普通。後はあんたがよそ見しないように大事に扱って、あんたが大人になるのを黙って待っていればいいだけ」
なんか、わたし、柿の実みたい。
「待たせちゃっていいと思う?」
おずおずと尋ねると、亜由美は少しばかりきつい眼差しでわたしを見た。
「あんたは相手の事考えすぎよ。友達の事でも圭吾さんの事でもね」
「そうそう。それに圭吾さんが本気出したら、あんたがどこで寝ようと関係ないわ」
ひえっ!
「脅してどうすんのよ、美幸」
「だいたいキスするのさえビビるのに、よく結婚しようなんて気になったわね」
「だって圭吾さんのこと好きなんだもの」
そこだけは、胸を張って言える。
「普通、好きならもうちょっと進むんじゃない?」
「そうね、中学生でも志鶴よりは大人よね」
う……二人ともひどい
「別に取って喰われる訳じゃないんだから、しちゃえば?」
しちゃえばぁーっ?
「『キス』をよ。バカね」
ああ、びっくりした
「でも、どうやってすればいいの?」
美幸と亜由美は顔を見合わせて、お手上げって身振りをした。
何よぉ
分からないんだものしようがないでしょ!
「あんたは相手がいるから簡単よ」
亜由美が言った。
「圭吾さんの前に立って『キスして』って言えばいいの」
い……言えるかなぁ
「こりゃ夏休みの宿題になりそうだわ」
美幸がボソッと言った。
アイスクリームショップを出たところで、マイクロバスが私達の横に止まった。品川ナンバーって、東京だよね。
助手席の窓がスルスルっと開いて、男の人が顔を出した。
「君達、この辺の子?」
まったく知らない人が、親しげに声をかけてくる。
わたしは思わず頷いていた。
「あのさ、『鬼の首塚』ってどこだか知ってる? 場所が分かんなくてさ、困ってるんだよ」
ああそれなら――って言いかけたら、美幸が押し止めるように『知りません』と答えた。
「そっかぁ、どうもありがとう」
わたしが怪訝そうな顔をすると、車がいなくなってから美幸にしこたま怒られた。
「あんたって子はどこまで呑気なの! 知らない人とは話さない!」
わたし、小学生??
「今時分、心霊スポット特集とかでテレビ局や雑誌記者がよく来るのよ」
亜由美が言う。
「大手はまだいいけど、身元がはっきりしないような連中もいるから美幸の言う通り関わらない方がいいわ」
「それにあそこ『線』から外れてるから行っちゃダメだよ」
美幸が言う『線』とは、この辺りの人が『龍線』とか『龍道』と呼ぶ鎮守のための一種のパワーラインの事。
見える人には見えるらしいのだけれど。
「美幸ってさ、何が見えてるの?」
美幸は、羽竜家出身のお祖母ちゃん譲りの、特別な目を持っている。
「色々だよ。ただ、見たくないものほどよく見えるかな。人の悪意とかは、形になって見えて気持ち悪くなる。おかげでなかなか人を好きになれないんだ――志鶴といると楽になるけど」
へっ? わたし?
「あんたって、何かこう、光に満ちてるの。浄化される感じ。あんたみたいな彼氏がいたら楽なんだろうけど」
「志鶴みたいな彼氏だったら、奥手すぎて苦労するわよ」
亜由美……ひどいよ




