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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第1話 裏庭に龍?な はじまり編
3/171

夜明けの嵐は突然に 3

「ゴメン! 本当にゴメン!」

 圭吾さんは、わたしに平謝りに謝った。

「だいたい、今日は志鶴ちゃんが来る日だと言っておいたはずよ」

 彩名さんが叱るように言った。

「今まで何をしていたの?」

「ああ、ゴメン。少し仕事が長引いて」


 この人、謝ってばかりだわ。

 何だかちょっとかわいそう。


「怖がらせたかなぁ」

 彩名さんに抱きついたままのわたしを見て、圭吾さんは言った。

「最初からやり直させてくれないか? 僕は、君の従兄の圭吾だ。よろしく」

 握手を求めるように手が差し出される。

 無視する訳にもいかず、わたしもおずおずと手を差し出した。

「志鶴です。よろしくお願いします」

 大きな暖かい手がわたしの手を包みこんだ。


 穏やかな優しい目。

 気難しい人って本当かな。


「怖がらないで。噛み付いたりしないから」

 おどけたように言われて少しだけ微笑むと、圭吾さんも笑顔になった。

「僕が保護者になるんだったね?」


 そうなんだっけ?


「お母様が、自分が親代わりでいいかって三田の叔父様に言ってらしたわよ」

 彩名さんが言った。

「なんだって? この土地の事は全て僕の責任だぞ」

「あなたに言っても、唸るような返事しか貰えないのだから仕方ないでしょう」

「母さんと話して来る」

 圭吾さんは、クルッとドアの方を向いて出て行きかけて、またわたしの前に戻って来た。

「保護者は僕だ。後で学校の事を話そう。いいね?」

 わたしがコクンとうなずくと、圭吾さんはアトリエから出て行った。

「珍しくご機嫌ね。何かいい事でもあったのかしら」

 彩名さんが不思議そうに言った。

「いつもはニコリともしないのに」


 そうなの?

 やだなぁ……別に伯母さんが親代わりでもよかったのに。


 しばらくしてアトリエに戻って来た圭吾さんは、自分でコーヒーを入れて、わたしの横の椅子に座った。

 わたしはちょっとばかりビビって、自分の椅子を横にずらした。


「困ったな……僕が怖い?」

 圭吾さんの言葉に慌てて首を横に振る。

「人見知りなんですって。初対面の人は苦手らしいわよ」

 彩名さんが助け舟を出してくれた。

「うーん……僕は君と仲良くなりたいんだけどダメかな?」

 大人の男の人がいかにも弱り切った様子なのが、何だかおかしかった。

「『ダメかな』ってきかれたら、ダメって言えないわ」

 わたしは小さな声で言った。

「よかった」

 圭吾さんはホッとしたようだった。

「学校は新学期からの編入だから、違和感なく入れると思うよ。二年生はクラス替えになってるしね」

 わたしはうなずいた。

「制服と教科書は明日買いに行こう」

「わたしが連れて行くわね」

 彩名さんが言った。

「僕も行くよ」

「あらまあ、どういう風の吹き回し?」

「一緒にいれば、それだけ早く馴染むだろ?」

「あなたにしては、いい心掛けね」


 どうやら圭吾さんは、真剣にわたしを預かろうと決めているみたい。

『お荷物』だと思わないでほしいな……


「あの……わたし、そろそろ部屋に戻って荷物を整理してきます」

「もう?」

 圭吾さんが顔をしかめて言った。

「手伝おうか?」

「いいえ! お手伝いしてもらうほどの量じゃないので」

「それなら――」

「圭吾」

 彩名さんが警告するように圭吾さんの言葉を遮った。

「少し休ませておあげなさい」

「分かったよ」

 圭吾さんはあきらめたように、ため息をついた。

「じゃ、夕食の時に部屋まで迎えに行く」

「あら! あなた、夕食を食べる気?」

 彩名さんが目を丸くした。

「食べるよ。誰だって食べるだろう?」

『でも』と言いかけて、彩名さんは残りの言葉を飲み込んだようだった。

「そうね。そろそろそうしてもいい頃だわ」

 おかしな言い方だと思った。

「とにかく、僕にも妹ができた訳だから、ちゃんとしないとね」

 圭吾さんはそう言って、コーヒーを飲み干した。

『妹』という言葉に舞い上がる気持ちを抑えながら、わたしはポツンと

「いつも通りで」

 と言った。

 圭吾さんがわたしの方を見たので、慌てて目を伏せた。

「いつも通りにしていて下さい」


 わたしの事なら、気にしないで。

 なるべく邪魔にならないようにするから。


「あ……ゴメン。迷惑だよね」


 圭吾さんの言葉に、わたしは弾かれたように顔を上げた。迷惑って――


「ほら僕は弟だから、何て言うか……兄貴の真似事をしたかったんだけど。まあ、君が迷惑だって言うんなら仕方がない」


 ええっ?!

 そうじゃなくてっ!


「迷惑なんかじゃありません!」

 思わず大きな声で否定すると、圭吾さんがニコッと笑った。

「そう? それなら、僕が君の周りをうろついても平気だね?」


 あ……あれ?


「妙な遠慮はなしってことでどう? 僕も彩名も君と仲良くなりたいし、君にこの家で楽しく暮らしてもらいたいんだ」

「えーと……あの……」

「とりあえず僕も部屋に戻るから、途中まで一緒に行こう。何せだだっ広い家だろ? 最初のうちは迷子になるよ――じゃあ彩名、また後で」


 何? なぜ? どうして?


 気づいた時には、わたしは圭吾さんに連れられて、二階への階段を上っていた。


 それにしても


 手、繋ぐ必要あるんだっけ??







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