夏休み計画 1
親愛なる親父殿
あなたの仕事の都合で、わたしが羽竜家の居候となってほぼ四ヶ月。
新しい家に慣れ、新しい学校にも慣れました。
だけど、いまだに慣れないのは――
あー
ここ圭吾さんの部屋だよね。
また泊まっちゃったの?
おまけに……
どうして圭吾さんが隣で寝てるのよっ!
しかもわたし、しっかり抱きついて寝てるし!
誰か幻だと言って。
そろーっと体を引き離そうとすると、体に回されていた圭吾さんの腕に力が入った。
「もう起きるの?」
げっ! そっちこそ起きてたの?
「今日から夏休み補習だから」
圭吾さんの胸に頬を押し当てたまま答える。
顔が熱い。
耳まで真っ赤になってる、絶対。
「ああそうだった。急がなくてもいいよ、車で送るから」
「でもね、シャワー浴びたいな~とか」
「ここのシャワー使えば?」
「着替えがないから」
あきらめたようなため息と共に腕の力がゆるんだ。
ほっとしたのもつかの間、頬に温かい手が触れて――上から押さえ付けられてしまった。
「いっその事、こっちに移ったら?」
「えーと……それはちょっと」
「ちょっと?」
「無理かなぁ」
「なぜ?」
こういう状況になるのが困るからじゃない!
お願いだから手首をつかむのやめて。
「圭吾さん……手、離して。いや」
あ……しまった。嫌だって言っちゃった。どうしよう。
圭吾さんはすぐに離してくれたけど
「臆病だな」
って、
ちょっと待ってよ。
笑ってるでしょ?
ひっどい!
「シャワー浴びておいで。後で母屋で会おう」
圭吾さんは何事もなかったかのように穏やかな声で言った。
わたしは慌てて跳ね起きた。
わたし、怯えてなんていないんだから。
大丈夫
冷静に
落ち着いて
「圭吾さん、約束よ。学校まで送ってね」
あ……声が上ずった。
この家に来て、いつの間にか従兄の圭吾さんの結婚相手と見なされ、
(うん。きちんとプロポーズされた訳じゃないんだよね)
結局、
優しくて、わたしを必要だって言ってくれる圭吾さんとずっと一緒にいようと心を決めて約一ヶ月。
今まで恋をした事もないわたしには圭吾さんの恋人って立場はすごく負担で、二人の関係をゆっくりと進めてほしいと圭吾さんにお願いした。
今は結婚さえ承諾してくれればいいと言って、圭吾さんは『お兄さん』でいつづけてくれてる。
結婚話自体は海外赴任中の親父にもあっという間に伝わり、わたしが二十歳になってからって決まってしまった。
ああ
結婚するまでずっとこのままの関係っていう訳にもいかないんだろうな。
圭吾さんの事大好きなのに、キスさえしてない。
わたし、ちゃんと圭吾さんを幸せにできるのかなぁ
自信ない……




