真夜中の裏庭で 2
晩ご飯はいらないと、圭吾さんが家に電話をしていてくれてよかった。とてもじゃないけど入らない。
家に帰ると、和子さんが着物をたたんでくれた。
「洗って来年までしまっておきましょうね」
そうか来年もわたし、ここにいるんだな。わたしが望めばこれから先も、ずっと。
今日はもうクタクタで、お風呂から出る頃にはフラフラ。髪を乾かすのもおっくうで、適当にふいて居間に行った。
広い和室に低めの家具を置いたその部屋には、いつも家族の誰かがいる。
今夜は珍しく圭吾さんがまだいて、彩名さんとコーヒーを飲んでいた。
「金魚どこ?」
わたしがそれだけ言うと、彩名さんは怪訝そうな顔をして、圭吾さんはコーヒーにむせた。
そんなに笑わないでよ。子供っぽい事くらい分かってる。
わたしが置き忘れた金魚のぬいぐるみはすぐに見つかった。
でもその後、圭吾さんに『髪がまだ濡れてる』ってお小言を言われて、足元に座らされた。
乾いたタオルで髪をふいてもらっていると、
「圭吾がそんな事をするのを見る日が来るとは思わなかったわ」
って、彩名さんが笑った。
「いくらでも言えばいいさ――ああそれと彩名、志鶴を連れて浴衣を仕立てに行ってくれないか?」
浴衣?
「花火大会に連れて行く約束をしたんだ」
「あらステキ! 志鶴ちゃん何色がいいかしら」
「まかせるよ。それと女の子が髪に飾るものも。何をどうつけてるのか僕にはさっぱりだから」
圭吾さんは気がついてたんだ。わたしが今まで縁日に行かなかったのは、友達がみんな浴衣を着て、髪をアップにしてくるからだって。
わたしには、浴衣を着せてくれたり、髪をセットしてくれる人はいない――
言わずに飲み込んだ惨めな泣き言が溶けて消えていく。
幸せな気分になって、フワッって気持ちよくなって、圭吾さんの膝にもたれた。
「あっ、こら志鶴! こんなところで寝るな」
だって、目を開けていられないんだもの。
「圭吾さん 大好き」
心の中で言ったつもりだったけど、声に出してたのかな。彩名さんが、『よかったじゃない』って言った気がする。
――志鶴の『好き』は兄妹の『好き』だよ
圭吾さんの不機嫌そうな声を、夢うつつで聞いた。
ゆらゆらゆらゆら 揺れている。
――ここで寝かせましょうか?
――窮屈だろ。いいよ、僕が連れて行くから。




