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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第1話 裏庭に龍?な はじまり編

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黄昏の光 1

 竜城たつき神社の大祭は六月の夏至の日。

 竜宮との間に道ができ、龍神が社に降り、この地の龍たちは竜宮への帰還を許される日とされている。

 闘龍は宵宮、つまりお祭りの前日に行われる。白衣と袴――闘龍用の装束もあつらえてもらって、和子さんが着付けをしてくれた。

 龍のシラユキは竹製のケージに入れられ、圭吾さんが車に積んだ。ユキはちょっとご機嫌ななめだったけれど、ケージの上から黒い布をかけるとおとなしくなった。


「ふーん、こうやって連れていくんだ。ねえ、圭吾さんが最初に龍を見せてくれた時って、どうやって居間まで連れてきたの?」

「内緒だよ」

 短く答えてから、圭吾さんはわたしの方をチラッと見た。

「羽竜の血筋が少し変わった力を持っているのは分かっているよね?」

「うん」

「気味悪くはない?」

「ううん。だって学校の四分の一は羽竜の親戚で、その半分は何らかの力を持ってるもの。日常茶飯事になってる。ああ、でも――」

 わたしは思い出して笑った。

「テストの前に先生が『不正をするのは構わないが、校訓を忘れるな』って言った時は目が点になったわ」

「ああ、あれね」

 圭吾さんもニッと笑った。

「あれを読んだらズルはできないよな」



 その日、テストの後で美幸がわたしを講堂に連れて行った。

「校訓ってあれよ」

 美幸の指差す正面の壁には、学校の創始者の言葉が掲げられていた。


 学生諸君へ

 人はそれぞれに

 天賦の才というものがある

 それは

 自らのために使う事も出来るし

 或いは

 他者を救うために使う事も出来る

 持てる力をどのように使おうと

 誰にも分かりはしない

 ただ 諸君ら自身が

 それを知っているだけである

 よく学び ひたすら励めよ


「わたしならいくらでもカンニング出来るわよ。でもこれを読むとね、そんなの意味がないと思うの」

 美幸はそう言った。

「出来は悪くても、正々堂々としていたい。龍神様からもらった力は誰かのために使いたい」

「そうね」わたしは頷いた。「わたしも、特別な力があったらそう思うわ、きっと」

「あら、志鶴にだってあるじゃない」


 わたし?


「ここの人達の力とは違うけどね、志鶴といると優しい気持ちになれるの。それってすごい事なんだよ」


 あの時、美幸はそう言ってくれた。

 それも誰かのために使える力なんだろうか。そう、例えば今、わたしに微笑みかける圭吾さんのために。


 そうだといいな。


「圭吾さんは、他の人のために力を使っているのよね?」

 わたしがそう言うと、圭吾さんは首を横に振った。

「僕の場合は、仕事だからそうしているだけだよ」

「お仕事?」

鎮守ちんじゅって分かるかい?」

「ちんじ……珍獣?」

 圭吾さんは吹き出した。

鎮守ちんじゅだよ。この地の災厄を鎮め、この地に住む人達を守る事――それが僕ら、羽竜一族に課せられた本来の仕事なんだ」

「じゃあ、圭吾さんはみんなを守るために、頑張ってるのね」

「志鶴にかかったら、スーパーマンにされそうだ」

 圭吾さんは苦笑い。

「そんな大袈裟なものじゃないからね」


 ううん。そんなことない。


 だってほら、


 神社に着いたら、境内に人がたくさん集まっていて、誰もが圭吾さんに挨拶するわ。圭吾さんは信頼されて、尊敬されている。あれは、圭吾さんが旧家の当主だからじゃない。圭吾さんがみんなのために、ちゃんとお仕事をしているからよ。


 圭吾さんは片手に龍のケージを持ち、もう一方の手でわたしと手をつないで、軽く挨拶に答えながら、わたしを連れて境内の奥にどんどん進んだ。

「ちゃんとご挨拶しなくていいの?」

「志鶴を控え所に置いたら戻ってするよ。みんな分かっているから大丈夫」

 少し離れた所で、賑やかな笑い声がドッとわいた。

 圭吾さんとそんなに年の変わらないような人達が、集まっておしゃべりをしている。本当なら、圭吾さんだってあの中で気楽に笑っていたのかもしれない。

 圭吾さんの大変さを、初めて知った気がした。

「志鶴? どうした?」

「あ、ううん。楽しそうだなって思って」

「そうだね」

 圭吾さんはわたしの視線の先を見て頷いた。


 もう少し境内の奥まで行くと、イベント用の大きな仮設テントが三張りあった。『龍師控所』と書かれた看板が一番手前のテント前に立っている。

 受付で名前を書いて中に入ると、誰かが『圭吾』と呼ぶ。圭吾さんは振り返って声をかけた人を見て――わたしの手を握る圭吾さんの手に力が入った。

「やあ優月、久しぶり」



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