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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編

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放課後~散ればこそ 3

 司先生の車の横に、もう一台車が停まった。

 ドアが開いて、助手席側から背の高いパンツスタイルの女性が降りた。

 片岡先生だ。 

運転席から降りて来たのは、デニムのロングスカートを着た女性――きっと先生のお友達だろう。

 驚いた事に、後部座席からも人が降り立った。わたしに手を振っている。


「美幸だ!」


 亜由美もいる。わたしは、美幸達の方に急ぎ足で近づいた。走りたいところだけれど、まだそこまで足はよくなっていない。


「二人とも来ないって言ってたくせに!」


 わたしは、はしゃぐように美幸に抱き着いた。


「亜由美に説得されたのよ。ただでご馳走を食べられるのに馬鹿みたいって」

「言ってくれれば迎えに行ったのに」

「あんたと圭吾さんには準備があるでしょ。だから片岡先生にお願いしたの」


 片岡先生とお友達が顔を見合わせて笑った。


「あれ、『お願い』って言うの?」

 片岡先生が可笑しそうに言った。

「わたしのアパートの前で、ヒッチハイクをしたように見えたけど」


「まあ、そうとも言いますね」


 美幸がニッと笑った。


「ああ、先生、先輩方、こんにちは」


 隣の車から、大事そうに荷物を抱えた美月が降りて来た。


 げっ! 美月、それって! 布で覆ってるけど、ケージじゃないの?


「あんた、龍を連れて来たの?」


 わたしが聞くと、美月は嬉しそうな笑顔を見せた。


「はいっ! ここ、空地があるから運動させようと思いまして」


 美幸と亜由美が、ソロソロと美月から離れた。


「三田先輩は連れて来なかったんですか?」

「あー、犬は連れて来たけど」

「残念ですぅ。大ちゃんのと三頭で競争したかったな」


 ってことは、大輔くんも? あー、龍ヲタが二人……


「龍って?」


 片岡先生が不思議そうな顔をした。


「見ますか?」

 美月が期待に満ちた顔で言う。

「見たいですよね?」


「えっ? ああ……」


 先生の友達が『この町にいるなら、一度見ておいた方がいい』と言い、美月は待ってましたとばかりに片岡先生を連れ去った。


 大丈夫かな……一抹の不安を覚える。


「滝田、やっぱり来る事にしたんだ」


 車を挟んだ向こう側から、悟くんが手を振った。

 その声に、悟くんの近くで圭吾さんと話していた巧さんがこっちを見た。


「美幸? 久しぶり」


 巧さんは軽く片手を上げた。


「ああ、うん」


 美幸は遠慮がちに、小さく手を振った。巧さんは頷いて、また圭吾さんや司先生との話に戻った。


「ほらね。別にどうって事ないでしょ?」


 亜由美が、美幸の肩を抱いて言う。


 あ……ひょっとして、いや、ひょっとしなくても、美幸は巧さんと会いたくなくて来たがらなかった?


 美幸は黙って頷いた。


 すると、亜由美は小声で

「でしょ? あんたにフラれたからって、ずっと根に持ってる訳ないじゃない」

 と、言った。


「わたし、フッてないし」


 美幸もヒソヒソ声で言い返す。


「へぇ、縁談を断ったのって、フッたって言わないんだ」


 美幸は不満そうに口を尖らせた。


「直接告られたんでもないし、本人を嫌いだって言った訳でもないっ!」


 み……美幸……声……デカイんですけど?


「滝田ぁ、僕が知らないうちに誰に告られたの?」


 悟くんが車の向こう側から、間延びした口調でまた声をかけた。


「うるさいわね! 誰だっていいでしょ?!」


 美幸が言い返す。


「出し抜いたのは誰? うちのクラス? 知らないだろうけど、君、結構人気高いんだよ」


 悟くんは、にこやかに言った。

 分かってる――完全にわたし達の話の中身を分かってて、わざと言ってる。


「じゃ、これ運ぶわ」


 唐突に巧さんが言った。

 こっちを見ようともしないのは、今の話を気にしてる証拠だと思う。

 圭吾さんが巧さんに何事か耳打ちした。巧さんが頷く。


「美幸、お前、こっちの運んで」


 巧さんが当たり前のように言って、自分の足元を指差した。


「えっ? どれ?」


 美幸は車を回り込んで、巧さんの側に行った。


「これ? あっちに持ってくの?」

「ああ。ついて来て」


 ポリタンクを片手に持った巧さんの後ろを、どう見ても軽いであろうバスケットを持った美幸がついて行く。

 多分、巧さん一人でも持てるよね。

 二人の後ろ姿を見ながら、司先生が顔をしかめた。


「悟、趣味が悪いな」

「ああでも言わなきゃ、巧兄貴は行動を起こさないだろ? なぁ、大野?」

「言っとくけど、わたしは賛成してる訳じゃないわよ」

「姑ババァみたいな事、言うなよ」


 亜由美は腕を組んで、凍りつきそうな目で悟くんを見た。


「美幸が笑う顔が見たいわ。それだけよ」


「悟、お節介を焼くのも程々にしろよ」

 圭吾さんもポリタンクを持ち上げながら言った。

「かえって事態を拗らせる事もある」


「圭吾も何か入れ知恵してたじゃない」


「焦るなって助言しただけだよ」


「深いね」


 悟くんは、意味ありげにわたしの方を見た。


 はいっ? 何かわたしに関係あるの?


「司さん、これも持って行く物?」


 車のトランクの中を見ていた優月さんが訊いた。


「優月! ダメですよ。あなたは何も持たなくていい」


 司先生が慌てて止めた。


 そんな二人を、圭吾さんが穏やかな眼差しで見る。どこか憧れにも似ていると思った。


「圭吾さん」


 小さく呼んだ。


 圭吾さんがわたしを見て、微笑む。


 これから先、わたしは何度も優月さんにヤキモチを妬くだろう。でも、平気。わたしは圭吾さんの『未来』だから。


「ねぇ、そろそろ片岡先生を助けに行った方がいいんじゃない?」


 悟くんが向こうを見渡して言った。


 あ、そうだ――って、美月も大輔くんも、ケージから龍を出してるし!


 桜の木の近くで、二頭の赤龍が羽を広げている。

 美月が腕を振ると、赤龍は美月の肩から空中に向かって飛び立った。続いて、大輔くんの赤龍が後を追う。

 美月の龍――ベニは、上空を優雅に旋回した後、急降下して片岡先生の肩に止まった。


 う、うわぁ! 初めての人に、いきなりそれはハードル高いでしょ!


 おっかなびっくり差し出した片岡先生の手に、ベニが顔を擦り付けた。


「おや、助けはいらないようですね」


 司先生が面白がるように言った。



 ホントだ……


 片岡先生は、声を上げて笑っていた。





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