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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編

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5時間目~心の中の絆創膏 1

 桜の匂いがする。家の門を出ると必ず。

 最初はフワッと匂う程度だったのに、日を重ねる毎に、匂いが纏わり付くように感じられる。

 さすがに、何かおかしいと思い始めた。


「ねえ、何かの匂いしない?」


 わたしは、学校で友達に言ってみた。


 美幸が鼻をクンクンさせた。


「別に。志鶴は感じるの?」


「うん。今はそうでもないけど。最近、外を歩いてると桜の匂いがするんだよね。すごく」


「桜なんて、もうほとんど葉桜よ。また何かに取り憑かれてるんじゃないでしょうね」


 と、亜由美が言う。


 また――って何よ。失礼ね!


「志鶴はすぐに同情するからなぁ」


 美幸が目を細めてわたしを見た。羽竜の血を引く美幸は、人に見えないモノが見える。


「ダメ男に惹かれる典型的なタイプね」

 亜由美が言った。

「つまずいた相手が圭吾さんでよかったわ」


「言えてる」


 美幸が笑った。


 二人とも、ものすごーく失礼よ。


「うーん……何か憑いてる風でもないけど。圭吾さんに言った?」


「ううん」

 わたしは首を横に振った。

「家では匂いしないし。それに最近の圭吾さん、ものすごく神経質なの。ほら、この間、わたしが派手にコケたでしょ? あれからずっと」


 これ以上、壊れ物みたいに扱われたら堪んない。


「悟くんに相談したら?」


 美幸が言う。亜由美も頷いた。


 うーん……


「たいした事なかったら、内緒にしてくれるわよ」


「でも、何か――例えば変なモノに取り憑かれてたりしたら?」


「そうなってても圭吾さんに隠す気?」

 美幸が呆れたように言った。

「後でばれたら、家に閉じ込められるよ」


 やっぱり、そう思う?


「分かった。お昼休みに話してみる」


「どうしてそんなに圭吾さんに知られたくないの?」


 亜由美が不思議そうに言った。


「だって……上手く言えないけど……圭吾さんは、わたしを大事にし過ぎるの。わたしは、もっと普通でいたいの。圭吾さんにも気楽でいてもらいたいの。分かる?」


「言いたい事は分かるわ」

 美幸が言った。

「でもね、あんたってどこか危なっかしいのよね。優し過ぎるっていうか、素直過ぎるっていうか」


「優しかったり、素直だったりするのはいけない事?」


「素敵な事よ」

 亜由美が優しい笑みを浮かべた。

「でも残念なことに、この世の中じゃそういう人は酷い目に合いやすいの。圭吾さんみたいな人が守ってくれるから、志鶴がそのままでいられるって思えない?」


「わたし……」


 笑われちゃうかなぁ。


「守ってもらうんじゃなくて、圭吾さんを支える人になりたい」


 二人は笑わなかった。


「なれるわよ」


 亜由美が、わたしの手をポンポンとたたいて言った。美幸が頷く。


 わたしを信じてくれる人がいる。不思議だけど、それだけで自信が持てた。

 わたしはきっと、素敵な女性になれる。

 圭吾さんに釣り合うような、圭吾さんを支えられるような――そんな大人の女性に。


「って言っても」

 美幸がコワイ顔をした。

「隠したって、心配事がなくなる訳じゃないんだからね!」


 へぇ~い。


「不満そうね……分かってないわよ、この子」


 分かってますわ、亜由美お姉様。


「まっ、事と次第によっては、悟くんが締め上げてくれるから大丈夫でしょ」

「そうね。昼休みが楽しみだわ」


 し……締め上げるって、何? どれ? どういう事?


 慌てふためくと、二人がニッと人の悪い笑みを浮かべた。


「ひっどーい! からかったの?」


 ブーっとふくれると、亜由美が人差し指でわたしの頬を突っついた。


「ホント、騙されやすい子ね。圭吾さんじゃなくても心配するわね」


「手間がかかる分、可愛いんじゃないの?」

 美幸がケラケラと笑う。

「あの圭吾さんをオロオロさせるんだから、志鶴はある意味大物よ」


 わたしは両手を投げ出して、グッタリと机の上に突っ伏した。


 あんた達――ホントに同い年? 三年くらいサバ読んでない?






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