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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編
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4時間目~恋の教科書 4

 部屋に戻って、わたしが二人分のコーヒーを入れた頃には、圭吾さんの機嫌もよくなったようだった。

 外を駆け回ったペロは、自分の寝床に潜りんでいる。わたしは自分用に甘くしたコーヒーを片手に、圭吾さんの横に座った。


「ゴールデンウィークはどうしようか?」


 圭吾さんがわたしを見て言った。


「どうしようか、って?」


 キョトンとして見返すと、圭吾さんが辛抱強く言い直した。


「連休だろ? どこか行きたい所とかある?」


 あ……ああ そういう事?


「別にないけど? 去年だって家にいたでしょ?」

「去年は、君はうちに来たばかりだったし、僕らは従兄妹だった」

「今だって従兄妹じゃない」

「従兄妹の前に恋人だよ。僕に望む事はないの?」


 あ……やばっ。これ、甘えなきゃいけない場面(ところ)なんだ。


「だって……どこも混雑するでしょ? 人混みは嫌いなの」

「そう? じゃあ近場で。混んでもたかが知れているから」


 近場で? わたしは何がしたい?


 ふっと深い穴に落ちて行くような感じがした。


「志鶴?」

「ごめんなさい。どこも行きたくない。ダメ?」


 圭吾さんは一瞬沈黙してから、わたしからコーヒーカップを取り上げた。


「もうちょっとこっちへおいで」


 気がついた時には、圭吾さんの脚の上で小さな子供のように、向かい合わせに抱っこされていた。圭吾さんの手がわたしの背中を撫でた。わたしは黙って圭吾さんの肩に頭を預けた。


「嫌なら家にいよう」

「ホント?」

「うん」

「ごめんなさい。わたし、変」

「変じゃないよ。気にしなくてもいい。分かるから」


 分かるの? 自分でも、どうしたのか分からないのに?


「圭吾さんはどこか行きたかった?」

「僕は君といられれば、それでいいよ」


 わたしはホッとして、圭吾さんの体に身を擦り寄せた。


「好き」

「うん」

「それだけ?」

「大好きだよ」


 圭吾さんは、あやすようにわたしの体を揺すった。


 すごく心地好いけど、これじゃあ小さな子供だわ。早いとこ、ユキからあの本を回収しなきゃ。


「あれ?」


 圭吾さんが、ずり上がっていたわたしのスカートの裾をさらにめくり上げた。


 うわっ!


「これ、どうした?」

「えっ? 何? どれ?」


 わたしの太ももには、大きな青痣があった。


「あー、どこかにぶつけたの。学校で」


 圭吾さんは顔をしかめた。


「最近、何だか怪我が多くないか?」

「そうかなぁ。そうでもないと思うけど……ま、確かにどこかにぶつけたり、指を挟んだりしてるかな」

「怪我しやすい時期ってあるんだよ。なんとなくボーッとしてて。事故にも遭いやすい。気をつけた方がいい」

「うん」


 圭吾さんは、わたしをギュッと抱きしめた。


「何だか不安だな」

「もう! 圭吾さんは過保護過ぎるのよ」

「だって君に何かあったら、僕はおかしくなってしまうよ?」

「大丈夫よ」


 わたしは圭吾さんの額に額をつけた。


「家では圭吾さんが、学校では悟くんが子守をしてるんだから」


 圭吾さんはニヤリと笑った。


「悟はともかく、僕は『子守』とは程遠い気分だけど?」


 長い指が、わたしの脚を撫で上げた。


「他に傷がないか見せてもらおうかな?」


 ま……待って!


「ダメっ!」


 わたしは、圭吾さんの肩を両手で押して離れようとした。


「ダメ?」


 圭吾さんがわたしを抱き直す。


「えーと……まだ明るいから」

「明るい方が見やすいよ」


 騙されないわよ。


「お仕事中でしょ?」

「そんなに時間はかからないさ」

「電話が来るかも」

「来ても、どうという事もないだろう?」


 あるわよっ!


「本当に見るだけだよ」


 う……そう言われたら、騒ぐわたしが馬鹿みたいじゃない。


「脱いで」


 きっぱりと言われて、わたしは渋々ブラウスのボタンを外した。その下はブラだけ。せめて、キャミソールを着ていればよかった。


「本当に華奢だな」


 圭吾さんは呟くように言った。


 それって、いいの? 悪いの? 胸が小さいって事じゃないよね?


 圭吾さんはわたしの肩をなぞって、ギュッと唇を引き結んだ。


「ここは?」

「ああそこはね、図書室で本を取ろうとした時に隣の本が落ちてきて当たったの」


 圭吾さんはフウッと息を吐いた。


「僕がやったのかと思った――」


 あ……どうしよう。このままじゃ、圭吾さんは絶対に自分を抑え続けそう。


「圭吾さんになら、痛くされてもいいわ」


 わたしがそう言った途端、圭吾さんが思いっ切り咳き込んだ。



 わたし、何か変な事言った?






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