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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編
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4時間目~恋の教科書 3

 うーん……よく分かんないなぁ……


 小さな赤いボールをくわえたペロが、わたしの膝に前足をかけて立ち上がる。わたしはボールを取り上げて、肩に止まっている白龍のシラユキに渡した。ユキは赤いボールをくわえると、クイッと頭を振ってボールを遠くまで飛ばした。

 ペロがボールを追って走っていく。

 ユキは何事もなかったかのように、頭を下げてわたしの膝の上の本を覗き込んだ。


「ねえ、あんたって字が読めるの?」


 ユキがキイと鳴く。


「読めるのかもね」


 なにせ、龍神様のお使いだもんね。


「何か色々書いてるんだけどさ……」


 わたしはため息をついた。


 加奈ちゃんに譲ってもらった恋愛の教科書を、裏庭で一人隠れて読んでいる訳だけど――

 謎は深まるばかりだ。

 第一に、愛し合う行為にこれだけのバリエーションがあるのが不思議でしょうがない。っていうか、圭吾さんにこんなコトしてもらった事がない。


「圭吾さんも知らないとか……」


 そんな訳、ない、ない。


 考えられる事は一つ。わたしが『お子様』だから、必要最低限に抑えているんじゃない?

 だとしたら、ちょっとムッとするなぁ。

 ま、実際にこういう場面に出くわしたら、度肝を抜かれるだろうけど。それはそれ、よ。

 だいたい、圭吾さんはいつも冷静だ。男の人ってそんなもの?

 この本を読む限りじゃ、男の人だって切羽詰まる事あるじゃない。わたしには、圭吾さんの理性を吹き飛ばすような魅力がないって事なのかなぁ……


「それに見てよ、ユキ。『彼が元カノとフェイスブックで繋がっていたらどうする?』――って、こっちはフェイスブックどころじゃなくて親戚で繋がっているのよ。どうしろって言うのよ」


 はぁっ……ため息しか出ない。


「もっとキレイになりたいなぁ」


 圭吾さんの選ぶ服を着れば、キレイになれる?

 ううん。『自分』をしっかり持っていない人は魅力的じゃないって書いてあるし、わたしもそう思う。

 やっぱり大学へ行ったり、お勤めしたりして大人の女性にならなきゃダメなんだ。それも、とびっきり素敵な女性に。


「よしっ! 頑張る!」


 何からやればいいのか分からないけど。あー、まずは受験勉強か……


 ペロが急に上を見上げて、キャンと鳴いた。


 げっ! まさか。


「志鶴! いるのか?」


 うわぁー やっぱり圭吾さんだよ。


「下にいるわ!」


 返事をしてから慌てて立ち上がった。


 本、本、本――どこに隠そう?!


 するとユキが、背表紙のところを前足でガシッと掴んで飛び去って行った。


「志鶴?」


 後ろから圭吾さんの声がした。


 セーフ! ありがとう、ユキ。


 振り向くと、渋い顔をした圭吾さんが立っていた。


「どうしたの? お仕事は休憩?」

「ああ」


 ぶっきらぼうな返事。機嫌ななめみたい。


「疲れた?」

「うん」

「コーヒー入れよっか?」

「いい」

「圭吾さん?」


 近寄って腕に手をかけると、いきなり抱き寄せられた。


「黙っていなくなるのはやめてくれ」


 唸るような声がそう言った。


「ここにいるじゃない」

「うん。でも探したんだ」


 わたしは圭吾さんの体に手を回して、背中をポンポンと叩いた。


「ずっと一緒よ」


 その瞬間、恋じゃなくても構わないと思った。

 圭吾さんの一部が人ではなくても、正気を保つためにわたしを求めているとしても、それでも構わない。たとえ明日どんな事が起ころうとも、この人のためになら生きて行ける。


「ねえ、やっぱりコーヒーを入れるわ。一緒に飲みましょ」





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