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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編

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4時間目~恋の教科書 2

 放課後の教室には、いつも女の子が数人、居残っている。

 本を読んでいたり、ケータイゲームをしたり、集まってだべってたり――時間の使い方は様々だけど、彼氏の部活が終わるのを待っている子が殆ど。


「加奈ちゃん、長谷川くん待ち?」


 わたしは本を読んでいる女の子に声をかけた。

 キッチリと編んだお下げ髪と黒縁の眼鏡。真面目を絵に書いたような松本加奈ちゃんは、一つ年下の『学校一のチャラ男』長谷川くんと付き合っている。


「うん。今日は特別講習を受けてるんだ」


 チャラい外見とはうらはらに、長谷川くんは学年一の秀才でもある。


「志鶴は?」

「圭吾さん待ち。校長室に来てるの」

「ああ、そうなんだ――ねえ、座ったら?」

「本、読んでたんじゃないの?」

「暇つぶしだもん」


 じゃあ、お言葉に甘えて。


 わたしは加奈ちゃんの前の席に、後ろ向きに座った。


「ココア、半分飲む?」


 わたしは自販機から買ってきた缶入りのホットココアを机の上に上げた。


「飲む。待って、カップ持ってるから」


 加奈ちゃんは鞄の中から小さなマグポットを取り出した。


「そっか。加奈ちゃん、お弁当派だもんね。自分で作るの?」


 わたしはココアを半分こにしながら訊いた。


「そう。毎朝四人分ね」

「四人分?!」


 すごっ!


「母親のと弟のと……その……長谷川くんの分と」


 おお!


「えっ! えっ! 一緒に食べてるの? どこで?」

「家庭科室。でも、他にも人がいるんだよ」

「でもそれ、お弁当カップルばっかじゃないの?」

「まあ、そうだけど」

「お弁当かぁ……カッコいいな」

「志鶴も作ればいいじゃん。料理できるんでしょ?」

「できるんだけどさ」


 わたしはココアを一口飲んだ。


「台所に立つといい顔されないのよ。火傷でもしたら、みんなが困るって言うの」

「お姫様にはお姫様の悩みがあるわけね」


 わたしはため息をついた。


「圭吾さんが、もうちょっと柔軟になってくれればいいんだけど」

「柔軟過ぎるのも悩みの種よ」

「それ、長谷川くんのこと? 上手くいってるんでしょ?」

「うん……あのさ」


 加奈ちゃんは一度俯いてから、意を決したように顔を上げた。


「圭吾さんとエッチしたことある?」


 ゲホッ! うぐっ! コ……ココアが鼻に入った!


「あー、ゴメンね。変な事聞いて」

 加奈ちゃんがティッシュを差し出す。

「もちろんした事あるよね」


 ま……まあね。


「わたし、ここのとこずっと、まあ……何て言うか、誘われてるわけよ。でも、踏ん切りがつかないの」

「迷ってるなら無理しない方がいいよ。圭吾さんもそう言って待っててくれたもん」

「そうも思うんだけど、断り続けてたら他の女の子に走っちゃうんじゃないかって心配になって。ほら、わたしの場合は、志鶴ほど思われてないから」


 いや、そうでもないと思うけど。


「長谷川くん、加奈ちゃんにベッタリじゃない」

「今はね」


 加奈ちゃんはそう言って頬杖をついた。


「わたし、自信ないんだ。おまけに恋愛経験ゼロだし」

「あー、それ、わたしも一緒」

「ホント? 告られた事とかも?」

「ないない」


 笑って振ったわたしの手を、加奈ちゃんがガシッと両手で握りしめた。


「心の友よ!」


 おっと。どこかで聞いたセリフ。


「もー、キスするだけでもわたしには大事おおごとなわけよ。分かる? 分かってくれる?」


 うんうん 分かる。


 コクコクと頷くと、加奈ちゃんはさっきまで読んでいた本を机の中から取り出した。


「ってことで、せめて知識だけでもって思ったんだけど」


 わたしは、緑色のブックカバーがかけられた本を手に取った。

 よく見ると、それは書店のブックカバーじゃなくて、元々の本の表紙を裏返すとブックカバーになるようにできているらしかった。

カバーをペラッと剥ぐってみる。


 『絶対彼に愛される――恋愛下手な女子のための完全マニュアル』


 へっ? これって――?


「今、流行ってるんだよね」

 加奈ちゃんが言う。

「恋愛小説家と女医さんの共著なの」


 ページをパラパラとめくってみた。


 おおっ! これって、恋愛の教科書じゃん!


「か、加奈ちゃん、これ普通の本屋さんに売ってるの?」

「そうだけど――えっ?! まさか買う気?」

「えっ? 何か問題?」

「この辺の本屋で志鶴がそんなの買ったら、あっという間に噂になるって!」


 あ、そっか!


「じゃあネットだ!」


 加奈ちゃんはため息をついた。


「志鶴の所なら、家の人にばれるでしょ。それもマズイんじゃないの?」


 うっ……そうだった。


「落ち着いて。この本、あげるよ。わたしはまた買えばいいだけだもん」


 心の友よ!


「これ、いくら? 払う」

「777円」


 うん。なんか、ラッキーなお値段。





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