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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編

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3時間目~理想と現実 2

 放課後の図書室で、わたしは頭を抱えていた。


 目の前には学校のパンフレット。

 大学が三校、専門学校が二校――どれも羽竜家から通学できる学校ばかりだ。


「試験日程がダブらないなら全部受ければ?」


 これは、亜由美のアドバイス。


「並べてダーツで決めるとか」


 こっちは美幸のアドバイス。美幸方式で行きたくなってきた。


「自分がどんな人間になりたいのか、分からないの」

 わたしは頭を抱えたままぼやいた。

「みんなは分かってる? 迷ったりしないの?」


「わたしは将来の職業重視よ。医療関係に進めば、取りあえず食いっぱぐれはないでしょ?」


 と、亜由美。


「職業はともかく、わたしは県外の学校にするつもり」

「えッ! 美幸は余所に行くの?」

「だって、生まれてからずっとこの町にいるんだよ。一度は都会で生活してみたいよ」


 わたしと逆ね。


「わたしはここで、羽竜家の一員でいたい」


 わたしがそう言うと、亜由美がわたしの肩を抱いた。


「志鶴にも、ちゃんと希望があるじゃない」

「そんなんでいいの?」

「そこから始めるのよ」


 そうか。


「英文科か国文科あたりが無難じゃない?」


 うーん。じゃあ、そのどっちかをダーツで決めようか。


 ペラペラとパンフレットをめくる。


「痛っ」

「どうしたの?」

「紙で切ったみたい」


 わたしは右の人差し指を目の前に近づけた。小さな傷から血が滲んでいる。


「紙で切ると痛いんだよね。絆創膏あるから指出しな」


 美幸がポケットから絆創膏を取り出した。ピンクの絆創膏で、キャラクターがついてる。

 カワイイ。

 美幸って、こういう所が『女子』だよなぁ。男親に育てられたわたしは、こういう細やかさが欠けている。少し意識して見習おう。


「美幸ってこういうの、どこで仕入れて来るの?」

「コンビニ、雑貨屋、ドラッグストア」

「ドラッグストアにこんなカワイイのあったけ?」

「あるんだな、これが」


 美幸はわたしの指に絆創膏を巻いてくれた。


「今度、一緒に行こ」


 うん。


「志鶴って女子校だったんでしょ? 女の子同士で出かけたりしなかったの?」


 亜由美が聞いた。


「あんまり親しい子、いなかったんだ。仲良しの幼なじみは、頭がよくて一般常識に疎いタイプだったし」


 なっちゃんの事は好きだけど、思い切ってこっちへ来てホントによかった。


「女子高生でいられるのは三年間だけよ。楽しまなきゃ」

 亜由美が言う。

「美幸がいるうちに、今しかできない事、三人でしよ」


 そうか。圭吾さんが言いたかったのは、こういう事だったんだ。

 新しい出会いと経験――これがそうなら、大学へ行くのも悪くないかも。

 いい事ばかりじゃないだろう。

 でも今のわたしには、相談できる相手も、助けてくれる手もいっぱいある。


「よしっ! 何か元気出てきた」


 わたしはパンフレットを揃えて言った。


「さすがは志鶴。単純だわ」

「あら、シンプルでいいじゃない」


 ねぇ二人とも、それって褒めてるの? けなしてるの?


 それから三人で、行きつけのアイスクリームショップに行った。

 お目当ては、季節限定『桜アイス』。桜の花と葉の塩漬けが入った、薄いピンク色のアイスクリームだ。


「ワンコ飼いはじめたんだって?」


 亜由美はストロベリーとのダブルにしていた。


「うん。黒くて小さくてカワイイの」


 わたしは大好きなチョコチップと。


「松子さんとこの犬?」


 美幸は、抹茶アイスとの和風の組み合わせだ。


「そう。要さんに見てもらったの」

「ああ、要さんのオススメなら間違いないよ。あの人、『聴き耳』だから」

「『聴き耳』って?」


 美幸は口の中のアイスを飲み込んだ。


「動物や植物の声が分かるの。木造なら、建物のも」


 へっ?


「警察官になる前も、県警によく呼ばれるって噂、あったわね」


 亜由美も知っているらしい。


「噂じゃなくて真実。よくテレビでFBIがやってるじゃない」

「超能力を使ったプロファイリング?」

「そうそう、そんなやつ。正式な証拠にはならないけど、捜査の役に立つらしいよ」


 びっくり。


「だから、そのワンコは最初から志鶴を気に入ってるはず」

「わたしは選んだつもりで、犬に選ばれたってこと?」

「まあ、それもいいじゃない」


 亜由美がニコッと笑った。


「愛される方が幸せってものよ」





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