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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第6話 花は桜の高3新学期編
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3時間目~理想と現実 1

 4月――新学期



「お願いね、面倒見てね」


 わたしはペロをサークルに入れた後、和子さんに何度も念を押した。


「お任せ下さい。お帰りになるまでちゃんと面倒をみますよ」


 羽竜本家の使用人を束ねている和子さんの厳格な顔が、少し緩んだ。


 新学期が始まって、わたしは自分がいない間、ペロの世話をどうするかを決めなくてはならなくなった。頼めば圭吾さんが見てくれるだろうけど、お仕事が忙しいだろうし、外出も多い。


「朝、母屋に連れてらっしゃい」

 そう言ってくれたのは、貴子伯母様。

「清潔にして、少し遊んでやればいいのでしょう? 人がたくさんいるのですもの、大丈夫よ」


 結果、ペロは保育園に通う子供よろしく母屋の居間でサークルに入れられる事になった。


「いい子にしてるのよ。すぐ帰って来るからね」


 ペロはわたしを見上げてしっぽを振った。


「ほら、遅刻するよ」


 圭吾さんがせき立てる。


 ああ、もう行かなきゃ。親父もこんな気持ちで、わたしを置いて仕事に行ったのかな……


「僕には、いってきますの挨拶は無し?」


 圭吾さんが、全然拗ねていない口調で、拗ねた台詞を言う。


 もうっ!


「いってきます」


 わたしは、わざと音を立てて圭吾さんの頬にキスをした。


「いってらっしゃい」


 圭吾さんが微かな笑みを浮かべる。


「ニヤケていてよ」


 圭吾さんの向かい側に座っていた、お姉さんの彩名さんが冷やかした。


「黙れ、彩名」


 圭吾さんが唸るように言った。わたしがクスッと笑うと、圭吾さんがしかめっ面をした。




 外はいいお天気だった。


 門を出た途端、強い風がザアッと吹いた。風に乗って桜の匂いがする。桜湯とか桜餅の、あの匂い。桜の匂いはバスに乗り込むまで、ずっと続いていた。


 桜の生花って、こんなに匂いするんだっけ?香りの高い品種とかあるのかな……


 間もなく通学バスが来た。

 バスは空いていた。午後から入学式だから、今朝は二、三年生しか乗っていないのだ。


「しづ姫」


 悟くんが最後部の座席にどっかりと座って、手を振っていた。


「おはよう、悟くん」


 近づくと、悟くんは座席を詰めて、わたしの座る場所を空けてくれた。


「ついに最上級生として、偉そうにできる日が来たよ」


 いや、今までも十分、上級生を差し置いて幅をきかせてたよ?


「いよいよ大輔くん、入学だね」

「ああ、うん」


 あれ?


「楽しみじゃないの?」


「どこの小学生?」

 悟くんは、そう言った。

「しづ姫、男は大概において照れ屋だ。分かる?」


 よく分かんない。


「思春期を迎えた途端、弟は可愛くなくなるし、父親は煙たく、母親はウザくなる」

「どうして?」

「本心からそう思っているわけじゃないよ。言わば『カッコつけ』だね」

「悟くんも?」

「僕も。それ以上に大輔も。兄貴にベタベタ可愛がられたい男の子なんていないよ」


 そうなんだ。


「せっかくの兄弟なのに寂しくない?」

「僕らはオスだ。縄張りを守るのが習性で、大人になれば、兄弟といえど縄張りを争うライバルなんだよ。ただし、外敵には一致団結して立ち向かう――それが兄弟の利点で、その程度の距離感が丁度いいんだ」


 ふうん。


「大輔くん、前にわたしの弟になってもいいって言ってくれたけど、あんまり親しげにしたら嫌かなぁ?」


「圭吾がね」

 悟くんは笑った。

「大輔よりも圭吾の心配しなよ」


 そうか。


「でも、学校でなら圭吾さんには分からないでしょ?」

「粘るね。そんなに兄弟が欲しい?」

「うん。悟くんにはいっぱいいるから、いいものだって気がつかないのよ」

「そうかも。うちの母は、子供の頃に弟を亡くしてるんだ。うちの兄弟が多いのはそのせいかな」

「きっとそうよ。わたしも赤ちゃん、いっぱい欲しいなぁ」


 憧れを込めて言った途端、悟くんがむせ返ったように咳込んだ。


 なぁに?


「圭吾にそれ、言ってみた?」

「ううん。ああ、でも似たような話はしたよ」

「け……圭吾は何て?」


 ん? 何かおかしい?


「わたしをお母さんにしてくれるって」


 悟くんはもう一度息を詰まらせた。


 何なのよぉ。



 よく分からないんで、学校に着いてから、親友の亜由美と美幸に聞いてみた。


「男の子のエロネタよ」

 亜由美がクールに言った。

「『赤ん坊』って聞くと、作る作業が真っ先に思い浮かぶらしいわ。まあ、作るしか能がないわけだから仕方ないわね。小学生レベルの話よ。気にする事ないわ」


 バッサリ 一刀両断。


 亜由美、カッコよすぎる……





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