1時間目~いきものがかり 4
要さんに送ってもらって、圭吾さんのところへ戻った。
「気に入るのは、いなかったのかな?」
手ぶらのわたしを見て、圭吾さんが訊いた。
「ううん。みんな可愛いかった。選べないから圭吾さんに見てもらいたいの。今日が忙しいなら別の日でもいいから」
「要が見てくれたんだろう?」
わたしは頷いた。
でも、わたしが一緒に暮らしているのは要さんじゃなくて、圭吾さんなのよ?
「やっぱり、犬とか猫はわたしの手には余るかも。もっと小さなものがいいかな……」
金魚とか、カメとか。それなら圭吾さんは平気?
圭吾さんが顔をしかめた。
「要? 何があった?」
「何も」
要さんが答えた。
「猫を見て、犬を撫でていたよ。ただ、お前に見てもらわなきゃ決められないそうだ」
「志鶴? 僕のペットじゃなくて、君のなんだからね」
そんなの分かってる。
「もう帰りたい」
ポツンと言うと、圭吾さんの顔が心配そうに変わった。
「どこか具合悪い?」
ああダメ。笑わなきゃ。
「あのね、動物を飼うって責任重大だから、よく考えたいの。いいかな?」
「それはいいけど……」
「圭吾、ちょっと」
要さんが圭吾さんの腕を引っ張って、少し離れた場所で話し始めた。圭吾さんが頷いている。
わたしはぼんやりと辺りを見渡した。
あそこに一本だけある木――桜かな?
遅咲きの木なのか、花がついているようでもない。
「志鶴」
圭吾さんがわたしを呼んだ。
なぁに?
「具合が悪くないなら、もう一度中を見に行こう。君が撫でていた犬を僕に見せてくれ」
ホント? いいの?
「おいで」
わたしは、差し出された腕の中に飛び込んだ。
よかった。あの子を見たら、きっと圭吾さんだって気に入るわ。
圭吾さんと手を繋いで、もう一度ペットシェルターの中に入った。
また大きな犬達が一斉に吠えて――
あれ?
辺りは、シンと静まり返った。
何??
犬達は柵の奥でしっぽを丸めて小さくなっている。わたしにしっぽを振ってくれたラブラドールでさえ、地べたに伏せていた。
「さっきはものすごく吠えていたのに……」
「僕が怖いんだよ」
圭吾さんがボソッと言った。
「家を継いだ時からこうなった。僕の中の龍神の力が怖いんだと思う」
わたしは、圭吾さんの体に腕を回して抱きしめた。
「大丈夫。わたしは怖くないもの。だからついて来てくれなかったの?」
「うん。僕が一緒だと、みんな逃げてしまうからね」
「犬や猫が嫌いなのかと思った」
「いや、好きだよ。あっちはそうじゃないみたいだけど」
かわいそうな圭吾さん。
「わたしの見た子犬はきっと大丈夫。すごく人懐っこいの。今すぐは無理でも、すぐに圭吾さんにも懐くわ」
圭吾さんがわたしをギュッと抱きしめた。
「お前、いい加減にその負け犬キャラ何とかしろよ。見てる方が情けない」
要さんが言った。
『負け犬キャラ』って何?
「仕方ないだろ? この方がウケがいいんだから」
圭吾さんは言い返した。
「ほとんど詐欺じゃないのか?」
「何とでも言え。なり振りなんてかまっていられるか」
圭吾さんはそう言うと、わたしの頭のてっぺんにキスをした。
「志鶴のためなら何だってする」
へっ? わたし? 今の、わたしの話だったの?
詐欺って……わたし、何か騙されてる?
「あ――――っ!!」
突然大きな声がした。
振り向くと、アイちゃんがあんぐりと口を開けて圭吾さんを見ていた。その後には、松子さんと他の子供達。
「お、お姉さんの彼氏って、その人?!」
「そうよ」
「その人、羽竜家の一番偉い人だよ?」
「知ってるわ」
わたしはニッコリと笑った。
「すごっ! お姉さん、見かけによらず度胸あるんだね。飼うのドーベルマンでも平気でいけるわ」
どうしていつも他の人が見る圭吾さんって、怖いイメージなんだろ? やっぱり羽竜が特別な家だからかな……
「割れ鍋に綴じ蓋って言いたいところだけどね。圭吾、あんたには勿体ないくらいのお嬢さんだよ」
松子さんがニッと笑って言った。
「しっかり捕まえているんだね」
「そうしますよ。さて、この娘が欲しがっている子犬ってのを見せて下さい」




