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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
おまけの圭吾編5

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マイ・ドール、マイ・ラブ

 失敗した気がする。


 志鶴にねだられて、人形作家である姉の彩名の個展に来た。

 泊まりがけになるが、たまにはいいか――と、気軽な気持ちで来たわけだが。


 初日は関係者を招いてのレセプションだという。


「圭吾君、盛装だからね」


 彩名の友人で、今回の個展のプロデュースもしている安西女史が事前に電話で念を押した。


「志鶴ちゃんのドレスはこっちで用意するから。着てほしいのがあるのよ」


 ホテルに届けられた箱には、ミントグリーンのスリップドレスが入っていた。

 同じ色の透ける素材のストールと細いストラップの銀のサンダルも。


「着てみていい?」


 志鶴がうっとりとした表情で訊く。


 いつも僕が服を買ってやろうとする時は、買い過ぎだって怒るくせに。

 いいよ。気に入ったならこのまま買い取るさ。


 スリップドレスって普通はセクシーに見えるはずなのに、志鶴が着ると華奢な体が強調されて儚く見える。ストールの透明感が壊れ物を包む薄紙みたいだ。


「大人っぽく見える?」


 志鶴が少し首を傾げて僕に訊いた。


 全然。

 そのデザインは、君の少女らしさを強調するためのものだよ。


「森の妖精のお姫様ってとこかな」


 僕がそう言うと、志鶴は頬を染めてクルッと回って見せた。ほころんだ口元が愛らしい。

 一瞬、全部はぎ取って押し倒してしまいたくなった。


 まずい。

 早めに出かけた方がよさそうだ。


 恋人同士になったといっても、恥ずかしがり屋で臆病な彼女を抱く時は、理性を残していなきゃならない。




 会場に着いて個展の関係者と会ううちに、僕は次第に苛立ってきた。

 とにかく、志鶴を見る目が気に入らない。

 いい年をした大人の男が、よだれをたらさんばかりに志鶴に見入る。僕が横にいなかったら、志鶴の肌に間違いなく手を触れていただろう。


「まあ、志鶴ちゃん、やっぱりそのドレス似合うわ」


 そう言いながら近づいてきた安西女史に、僕は不機嫌に挨拶をした。


「安西さん、似合いすぎて悪い虫を追い払うのに苦労するよ」

「ふふふ、志鶴ちゃんって肌がきれいで生きてるお人形みたいだものね。人形コレクターにとっては垂涎の的よ。おかげでさっきから『あの子がモデルの人形はあるのか?』って問い合わせが殺到。愛好家の間で話題になるわ」


 やはり、営業狙いか。


「こんなかわいい子を独り占めしてるんだから、少しは大目にみてよね」


 安西女史は意味ありげにほほ笑んで言った。


「志鶴、もてているらしいよ」


 僕がそう言うと、志鶴は僕の腕にしがみつくように抱きついた。


「おじさんにもてても嬉しくない」


 志鶴がむっつりとして言う。


 僕は笑ってしまった。


「もう! 笑わないで! わたしは圭吾さんに『きれい』って思われたらそれでいい」


 『かわいい』じゃダメかい?


 まあ、最近の僕は他人の趣味をとやかく言えるような立場じゃないな。


「幸せな男ね」


 安西女史は僕の肩を拳で軽く小突いた。


「もう帰ってもいいわよ。二人っきりになりたくて、うずうずしてるみたいだし。彩名には言っておいてあげる」


「よかった」

 僕は安堵のため息をついた。

「これ以上いたら、ここで始めるところだったよ」


「始めるって、何を?」


 志鶴が不思議そうに僕を見た。


「ホテルに帰ったら教えてあげるよ」


 一晩かけて、ね。

 まずはそのストールをはぎ取って――いや、それはそのままの方がいいか。


 暴走気味の妄想を抑えつけて、僕は志鶴の肩を抱いた。


「圭吾さん、変な事考えてない?」


 志鶴が悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「さあね」



 それは後のお楽しみだよ、マイ·ラブ。




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