恋人たちのバレンタイン
最近、志鶴の態度がおかしいのは、きっとバレンタインデーが近いから。僕に内緒で何か準備しているらしい。
2月14日――世間で言うバレンタインデー。
だけど、その日は、君の17歳の誕生日じゃないか。
僕も密かに準備する。
君には内緒。まあ、僕の方が一枚上手だけどね。
いろいろ悩んだんだ。
君は僕と二人っきりより、みんなに囲まれたパーティーの方が喜ぶかもしれない とか
夜景の綺麗なレストランでロマンチックな食事をしたいんじゃないか とか
君は僕が何をしても喜んでくれるけど、本当の望みが見えなくて困ることがあるんだ。
結局、君と二人っきりになりたくて――ほら、僕はワガママだからね。
僕の部屋に毛布を敷いて、ピクニックみたいに食事をすることにした。
カーテンを全開にすると、お誂え向きに満月が輝いている。
自分の誕生日だと気づいた君の瞳は、空の月のように真ん丸く輝いていた。
君は『誕生日だって忘れていたわ』って笑いながら、僕にバレンタインのプレゼントをくれた。
君のハートと一緒に。
僕は君に、ハート型の金のペンダントを贈った。
僕のハートと一緒に。
いつものように他愛ない話をして、君が笑って、うっとりするような笑顔を僕に向けて、僕はそれだけで幸せだった。
「あのね、圭吾さん」
何?
「わたし、圭吾さんの恋人になりたいの」
君は僕の唯一の恋人だよ。
「そうじゃなくて」
君はもどかしげに言った。
「本当の恋人に。わたしを抱いて。そして愛して」
僕の頭に一気に血が上った。
自分が何を言ってるか分かってる?
僕に何をされるか分かってる?
君がうなずく。
君が泣いても僕はやめないよ。
「それでもいいわ」
でもね、志鶴。僕は怖いんだ。
年齢よりも子供っぽくて、純水培養みたいな君。男の本性を見て、僕を嫌いにならない?
柔らかな肌に触れ、君がおとなしく僕の腕の中に収まる。
君にゆっくりと口づけて、そっと触れて、愛を請う。
お願いだ。
嫌だと言わないで。
僕を拒まないで。
「圭吾さん、大好き」
囁くような小さな声。
僕の中で何かが崩れ、眠れる龍が暴れだした。
君が欲しい。髪の毛の先まで。
堰を切ったように気持ちが溢れ出す。
止まらない。止められない。
貪るような口づけも、追い詰めるような愛撫も、志鶴は嫌だとは言わなかった。
震える小さな身体で、最後まで僕の思いを受け入れてくれた。
小さく泣きはしたけれど。
やっと柔らかな身体に包まれて、安堵のため息をついた僕に、
「終わった?」
無邪気な声で君が言う。
僕は思わず吹き出してしまった。
ああ、むくれないで。
「もう少しだよ」
僕は笑いをこらえて言った。
これから本格的に始まるんだけどね。
――本当の言葉は飲み込んで。




