我が心は変わる日なく1
「今朝は絶好の名場面を見逃しましたぁ」
昼休みの学食で、いつもの席にやって来た美月が、いかにも無念そうに言う。
「何かあったの?」
わたしがそう言うと、美月は割り箸を口にくわえて割ってから、
「三田先輩のことですよ」
と言った。
わたし?
「うちのクラスのチャラ男の胸倉つかんで、一喝したんでしょう?」
それ違うから。
「その後、大野先輩が『屠殺場送りになりたいの?』って 啖呵を切ったって」
いや、それも違うから。
「で、ハッセーは泣いて謝った」
泣いたけど、泣かせた訳じゃないから。
「すごい尾ヒレじゃない」
亜由美が笑った。
「それより美月、あんた割り箸手で割りなさいよ。オヤジくさい。美少女がだいなしだわ」
「美少女は何をやっても美少女なんです」
あー、自信持ってそう言えるあんたってすごいわ。
「もう一つ噂を聞きましたよ」
いやーな予感がするわ。
「三田先輩がキスマークつけてたって」
うわぁー やっぱり……
「珍しくもなんともないと言っておきました」
それ、フォローのつもり?
「で、ついに圭吾さんとやったんですか?」
「美月ちゃん、頼むからそういう品のない言い方やめて」
悟くんが注意した。
「美少女は何を言っても美少女なんです」
「それは認めるけど、一緒にいる僕の品性まで疑われるから」
「分かりました。じゃあ言い方を変えて――」
「ノーコメント!」
わたしは慌てて言った。
「訊かないで」
「まだって事よ。デリケートな問題なんだから、そっとしておきなさい」
亜由美ぃ フォローになってない!
「だいたいね、みんな、わたしのコトとやかく言い過ぎじゃない?」
わたしはむっつりと言った。
「それはしょうがないよ。この町で羽竜本家って言ったら全ての中心だもの」
美幸が言う。
「圭吾さんは公平な人だけど、なにせ気性が激しいから。志鶴がちゃんと奥様に収まってくれなきゃ、みんな困るのよ」
「そうですね。一時期はひどかった――」
「美月!」
珍しく悟くんが声を荒げた。
「余計な事は耳に入れるな」
「いいわよ、薄々は知っているから」
わたしは手をヒラヒラと振った。
「圭吾さんにも、今の圭吾さんだけを見ていてって言われてるし。要するに、圭吾さんとわたしの仲がよければいいんでしょ?」
ぐるっと見回すと、みんながうなずく。
「わたし達はとってもうまくいってる。だから、個人的な事は追究しないで。嫌になって逃げるかも」
「――だそうよ、美月」
亜由美が言った。
「あんたのせいで志鶴が逃げたら、圭吾さんに生きたまま皮をはがれるわよ」
「もう何も言いません」
美月は両手で自分の口を塞いだ。
「そうして。美少女は何も言わなくても美少女だから」
悟くんが言う。
「それと、しづ姫、冗談でもそういうコト言うのやめて。圭吾の耳に入ったら大事になる」
「大袈裟ね」
「僕は真面目に言ってるんだよ」
悟くんが顔をしかめる。
「分かった、分かった。危ない冗談は言わない。圭吾さんと仲良くして、二十歳になったらお嫁さんになる――これでわたしのコト、そっとしておいてくれる?」
「どうして二十歳なんですか?」
美月が尋ねた。
「うちの親父の方針だから」
「えーっ! でも……」
「美月ちゃん、もう何も言わないんじゃなかったの?」
悟くんがうんざりしたように言った。




