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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編
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どんなに上手に隠しても2

 プレゼントのラッピングを終えて、お手伝いさん達を玄関でお見送りしたら、なんと十時過ぎ!


 やばっ! 圭吾さん、待ちくたびれてるかも。


 プレゼントは明日まで、彩名さんのアトリエで預かってもらうことにした。

 自分の部屋で学生かばんの中身をチェックし、ダッシュで三階への階段を駆け上がる。


 ドアをそおっと開けて、部屋の中を覗き込んだ。

 意外にもCMの音楽が聞こえた。


 あれ? テレビ観てる?

 ううん 違う。


 テレビの前には誰もいない。


 圭吾さん、お仕事?


 ドアをもう少し押し開けると――


 おわっ! 何? 何? 何?


 わたしはいきなり部屋の中に引きずり込まれ、壁に押し付けられた。


「け、け、け、圭吾さん?」

「遅い」

 圭吾さんがわたしの肩に顔を埋め、唸るように言う。

「何もいらない。何もしなくていい。ただ僕といて」


 バカね。圭吾さんのためにやっているのよ。


 わたしは圭吾さんの背中にそっと手を回した。


「僕はどうかしている」


 圭吾さんの声が、くぐもって聞こえる。


「そうね。わたしなら、可愛く『キャッ』って悲鳴をあげるような女の子を好きになる」

「悲鳴をあげたよ」

「変な叫び声ならあげたけど?」


 圭吾さんは顔を伏せたまま、ククッと笑った。


「それでも僕は君が好きだよ。何だか甘くていい匂いもするし

「髪に匂いついちゃったかなぁ。シャワー貸して」

「このままでいいのに」


 吾さんはわたしの首筋に鼻をすりつけた。


「肌も甘い匂いがする」


 えっ? ちょっと待って!


 壁に押し付けられたまま、ゆっくりと首筋にキスされた。

 食べられたって言ってもいいくらい。

 ちょっとくすぐったくて、それ以上に、押し付けられた唇は熱く、軽くかじられた場所から背中を通って甘い痺れのようなものが走った。

 脚がガクガクする。

 小さく短い悲鳴が、口からこぼれた。


「ゴメン」

 圭吾さんは顔を上げた。

「嫌かい?」


「嫌じゃないけど……ついていくのが大変なの」


 ああ、落ち込みそう。こんなくらいで、いっぱいいっぱいだなんて。


「女の子は驚くのが好きだと思ったけど」


 それ、誰情報?


「意外性のない彼氏の方がお好みかい? つまらなくない?」


「本当の圭吾さんはどれ?」


 わたしは慎重に尋ねた。


「今、君を味見した僕――たぶんね。割と衝動的な方だよ」

「じゃあ、その圭吾さんがいいわ」

「あれだけビビったのに?」

「うん」


 圭吾さんは、ちょっと躊躇ってから


「君の望みを教えて。理想の彼氏になるよう努力するよ」


 と、言った。


「わたしの理想は知っているんじゃないの?」

「君の心の中を見てもよく分からないんだ」


 思わず笑ってしまった。


「そうね、だってそもそも理想の彼氏像なんてないんだもの。彼氏がほしいと思ったこともない――圭吾さんは別よ。ずっと一緒にいてほしい」

 わたしは圭吾さんの胸に頬を寄せた。

「何も作らないで。本当の圭吾さんのままでいいわ。大好きよ」


 圭吾さんが深々とため息をつく。


「本当の僕を見たら、君は僕を嫌いになるかもしれないよ。前に言っただろう? 以前の僕は自慢できるような人間じゃなかったって」

「でも、今は違うわ」


 圭吾さんはわたしを抱きしめて、頭のてっぺんにキスをした。


「シャワーを浴びておいで。髪を乾かしてあげるよ。それから僕を寝かしつけてくれ」


 わたしはクスクスと笑った。


「覗かないでよ」

「覗かないよ」


 圭吾さんはニヤリと笑った。


「でも、着るものを隠すかも。天女が水浴びしている間に羽衣を隠すと、嫁になってくれるらしいから」

「困っている女性につけ込むなんて最低」

「こんなことを言ったら怒るかもしれないけど、男の気持ちがよく分かるんだ」

「やぁね」


 わたしは、圭吾さんの脇腹を軽く肘で小突いた。


「シャワー浴びて来る」

「ごゆっくり、お姫様」


 圭吾さんはそう言うと、優雅に一礼した。




 熱めのシャワーが気持ちいい。


 シャンプーを手にした時、『あれ?』っと思った。


 いつも普通に使っているけれど、女性用のシャンプーとコンディショナー――これって、わたしのために用意してあるんだよね?

 この部屋に出入りするようになった頃は、どうだったろう?

 龍のいる裏庭に行きたいのが先に立って、この部屋をあまり意識した事はない。


 でも、今よりもっと殺風景じゃなかった?


 闘龍の訓練の後、圭吾さんがアイスクリームを出してくれるようになって、『テレビを自由に見ていいよ』と言われ、わたしが前から欲しかったゲーム機を見つけて――

 どこからどこまでが、わたしのために用意された物なのか分からない。


「困った人」


 ねえ、圭吾さん、分かっている?


 わたしが嬉しかったのは物じゃなくて、アイスクリームを分け合うあなたがいたこと。

 テレビを見て笑いあえるあなたがいたこと。

 ずっとやりたかった二人用のゲームを、一緒にしてくれるあなたがいたこと。


 愛してるわ。


 どうか、わたしのこの思いが真っ直ぐにあなたの心に届きますように。




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