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龍とわたしと裏庭で  作者: 中原 誓
第5話 愛を伝えるバレンタイン編

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くれない匂う2

 常盤さんと一緒にいた女性は、大きな建設会社のお嬢さんで、『結婚を前提としてお付き合いしている人』って紹介された。


 でも、常盤さん。この人、自分の話しかしないよ?

 常盤さんだって、ずっと退屈そう。

 それでいいの?


 わたし、不思議そうな顔をしていたのかも。


「君は別の世界に住んでいるんだね」

 常盤さんは苦笑いを浮かべて言った。

「羽竜がうらやましいな。帰ったら、よろしく言っておいて」


 わたしはうなずいた。


「わたし達、これからジュエリーを見に行くの」

 彼女が自慢気に言う。


 そう。わたし達はこれから、バレンタインのギフトパッケージを見に行くのよ。


「あなた、いいわね。羽竜さんなら何でも買ってくれるでしょう?」


「ええ」


 でも、わたしは圭吾さんが側にいてくれれば、それでいいの。



「すげえ女」


 常盤さん達の背中を見送りながら、悟くんがつぶやいた。


「常盤さん自身が好きなわけじゃないのね」

「将来の代議士夫人って立場が好きなんだろ。常盤って奴だって、彼女よりも彼女の父親が好きなはずだよ。まあ、ある意味お似合いのカップルだね」


 そんなの嫌だわ。


「彼の言った通り、僕らは違う世界に住んでいるんだよ」

 悟くんはわたしの手を取った。

「戻ろう。少なくとも、大野達は僕らの世界の住人だ」


 そうね。


「あとは、パッケージ買わなきゃ」

「チョコは?」

「チョコレートケーキを作るの。お手伝いさんに教えてもらって」

「へぇ、頑張るね」


 何だか褒められたみたいで嬉しくて、わたしはその場でクルッと回ってみせた。


「だってね、圭吾さんが大好きなんだもの」

「はいはい」


 悟くんは優しく微笑んだ。


「君は圭吾にはもったいないくらいのだよ。運のいい奴だ」



 ううん。


 運がいいのはわたしの方よ。みんなの愛情に包まれているもの。



 特設ストアに戻ると、亜由美と美幸は買い物を終えたようで、すぐに見つかった。


「お待たせ。美月は?」

「まだレジ」

 美幸がクルッと目玉を回した。

「あの子、あんなに買い込んでどうするんだろ」

「自分用とか?」


 美月のやることはイマイチよく分からない。


「わたしもギフトパッケージ買ってくる。目星はつけてあるからすぐに戻るね」

「急がなくてもいいわよ」

 亜由美が言った。


 ピンクや赤のハート型のパッケージが並んでる。彼氏が同級生だったら、こんなのを選んだのかもね。

 わたしが選んだのは、艶のある深紅の六角形の箱だ。外側を包む白い薄紙と金色のリボンも買った。


「先輩、やっぱチョコは手作りですか?」


 いつの間にか美月が横に立っていた。


「まあね。あんたは、ずいぶん買ったわね」

「義理チョコと友チョコばっかりですけど。早いとこ彼氏をゲットして、来年は絶対に手作りしてみせますっ!」


 ああ……健闘を祈るわ。


 美月と一緒に、美幸達のいる方に向かった。

 人混みをかわしながら歩いていると、


「あなた」


 不意に囁くような声がして、美月がいるのと反対側に人の気配がした。

 目を上げると、女の人がわたしを見ている。


「あなた――の恋人?」


 何?


「違いますけど」


 声が震えた。


 この人、変。

 こんなに近くにいるのに、顔が陰になって見えない。


「あなた――くんの恋人?」


 地の底から囁くような声が重ねて問う。


 人間じゃない――


 わたしが悲鳴を上げそうになった時、美幸がわたしの名前を呼んで抱き抱えた

 近くで、舌打ちする悟くんの声がする。


「くそっ、逃げられた!」

「何なの、あれ」

 わたしは美幸にすがりついた。

「あれ、生霊だよね」

 美幸が悟くんに訊く。

「ああ、十中八九。大丈夫? しづ姫」


 わたしはうなずいた。


「生霊って?」

 美月がキョトンとして言った。

「人じゃなかったんですか?」

「美月ちゃん、見えたの?」

「はい。陰になってましたけど」

「まずいな」

 悟くんは顔をしかめた。

「しづ姫や美月ちゃんにも見えたとなると、かなり強い生霊だぞ」


 昔の物語では、生霊に取り殺されたりするけれど……お話だよね?


「あんな強い思いに取り付かれたら体を壊すよ。まあ、生霊を飛ばしてる方も無傷ではいられないだろうけど」

 悟くんの言葉に、美幸がうなずく。

「でも、無意識で飛ばすことの方が多いからね……志鶴に付きまとったってことは、圭吾さんの関係者かな?」

「んー、僕が把握してる限りでは、そこまで執着してくる女――あ、いや、女性関係とは限らないからね、しづ姫。しづ姫?」


 生霊が探していたのは、わたしじゃない。


「け、け、圭吾さんを呼んで。すぐに来てもらって。大変なの」




 あの霊は間違いなく言った。


 『あなた、道隆くんの恋人?』


 ――常盤さんだ。





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