くれない匂う2
常盤さんと一緒にいた女性は、大きな建設会社のお嬢さんで、『結婚を前提としてお付き合いしている人』って紹介された。
でも、常盤さん。この人、自分の話しかしないよ?
常盤さんだって、ずっと退屈そう。
それでいいの?
わたし、不思議そうな顔をしていたのかも。
「君は別の世界に住んでいるんだね」
常盤さんは苦笑いを浮かべて言った。
「羽竜がうらやましいな。帰ったら、よろしく言っておいて」
わたしはうなずいた。
「わたし達、これからジュエリーを見に行くの」
彼女が自慢気に言う。
そう。わたし達はこれから、バレンタインのギフトパッケージを見に行くのよ。
「あなた、いいわね。羽竜さんなら何でも買ってくれるでしょう?」
「ええ」
でも、わたしは圭吾さんが側にいてくれれば、それでいいの。
「すげえ女」
常盤さん達の背中を見送りながら、悟くんがつぶやいた。
「常盤さん自身が好きなわけじゃないのね」
「将来の代議士夫人って立場が好きなんだろ。常盤って奴だって、彼女よりも彼女の父親が好きなはずだよ。まあ、ある意味お似合いのカップルだね」
そんなの嫌だわ。
「彼の言った通り、僕らは違う世界に住んでいるんだよ」
悟くんはわたしの手を取った。
「戻ろう。少なくとも、大野達は僕らの世界の住人だ」
そうね。
「あとは、パッケージ買わなきゃ」
「チョコは?」
「チョコレートケーキを作るの。お手伝いさんに教えてもらって」
「へぇ、頑張るね」
何だか褒められたみたいで嬉しくて、わたしはその場でクルッと回ってみせた。
「だってね、圭吾さんが大好きなんだもの」
「はいはい」
悟くんは優しく微笑んだ。
「君は圭吾にはもったいないくらいの娘だよ。運のいい奴だ」
ううん。
運がいいのはわたしの方よ。みんなの愛情に包まれているもの。
特設ストアに戻ると、亜由美と美幸は買い物を終えたようで、すぐに見つかった。
「お待たせ。美月は?」
「まだレジ」
美幸がクルッと目玉を回した。
「あの子、あんなに買い込んでどうするんだろ」
「自分用とか?」
美月のやることはイマイチよく分からない。
「わたしもギフトパッケージ買ってくる。目星はつけてあるからすぐに戻るね」
「急がなくてもいいわよ」
亜由美が言った。
ピンクや赤のハート型のパッケージが並んでる。彼氏が同級生だったら、こんなのを選んだのかもね。
わたしが選んだのは、艶のある深紅の六角形の箱だ。外側を包む白い薄紙と金色のリボンも買った。
「先輩、やっぱチョコは手作りですか?」
いつの間にか美月が横に立っていた。
「まあね。あんたは、ずいぶん買ったわね」
「義理チョコと友チョコばっかりですけど。早いとこ彼氏をゲットして、来年は絶対に手作りしてみせますっ!」
ああ……健闘を祈るわ。
美月と一緒に、美幸達のいる方に向かった。
人混みをかわしながら歩いていると、
「あなた」
不意に囁くような声がして、美月がいるのと反対側に人の気配がした。
目を上げると、女の人がわたしを見ている。
「あなた――の恋人?」
何?
「違いますけど」
声が震えた。
この人、変。
こんなに近くにいるのに、顔が陰になって見えない。
「あなた――くんの恋人?」
地の底から囁くような声が重ねて問う。
人間じゃない――
わたしが悲鳴を上げそうになった時、美幸がわたしの名前を呼んで抱き抱えた
近くで、舌打ちする悟くんの声がする。
「くそっ、逃げられた!」
「何なの、あれ」
わたしは美幸にすがりついた。
「あれ、生霊だよね」
美幸が悟くんに訊く。
「ああ、十中八九。大丈夫? しづ姫」
わたしはうなずいた。
「生霊って?」
美月がキョトンとして言った。
「人じゃなかったんですか?」
「美月ちゃん、見えたの?」
「はい。陰になってましたけど」
「まずいな」
悟くんは顔をしかめた。
「しづ姫や美月ちゃんにも見えたとなると、かなり強い生霊だぞ」
昔の物語では、生霊に取り殺されたりするけれど……お話だよね?
「あんな強い思いに取り付かれたら体を壊すよ。まあ、生霊を飛ばしてる方も無傷ではいられないだろうけど」
悟くんの言葉に、美幸がうなずく。
「でも、無意識で飛ばすことの方が多いからね……志鶴に付きまとったってことは、圭吾さんの関係者かな?」
「んー、僕が把握してる限りでは、そこまで執着してくる女――あ、いや、女性関係とは限らないからね、しづ姫。しづ姫?」
生霊が探していたのは、わたしじゃない。
「け、け、圭吾さんを呼んで。すぐに来てもらって。大変なの」
あの霊は間違いなく言った。
『あなた、道隆くんの恋人?』
――常盤さんだ。




