真昼の園に潜むもの 4
しばらくして戻ってきた圭吾さんが、わたしの後ろから肩に両手を置いた。
「用事終わりました?」
「うん。みんなの用事も終わったようだね。全員車で送るよ」
友達が歓声をあげた。
全員は乗れないんじゃないの?
と思ったら、駐車場には七人乗りのボックスカー。
あれ?
さっき、みんなが言っていた不思議な話が頭をよぎった。
「さっきの電話で滝田さんとこの娘さんにきいたんだよ」
圭吾さんがわたしの耳元でささやいて、ウィンクした。
なあんだ
圭吾さんは、ぐるっと遠回りドライブして友達を送り届けた。
車に気づいてお母さんが挨拶に出て来たところもあった。
そういやぁわたしの事を羽竜のお嫁さん候補と思っている人もいるんだよなぁ
「ねえ、圭吾さん」
二人っきりになってから、わたしは口を開いた。
「ん? 何?」
「みんながさっき言ってたんだけど……圭吾さんが龍神様の子孫だって」
「ああ、よくある昔話だよ。海を鎮めるために毎年若い娘が生贄になる。村で最後に残った娘は海から生きて帰って来た。龍神の子を身篭って。娘は竜宮に帰らず、生まれた子供が羽竜の始祖となった――そんな話だ」
「『線』ってみんなが言うのは?」
圭吾さんは横目でチラッとわたしを見た。
「一種のお祓いとか、結界みたいなものだよ。羽竜家は――そうだな、神主みたいなものかな。神社を守って、お祓いのような事もするよ」
圭吾さんの口調はどこか淡々としていて、昔からの迷信だと言っているみたい。でも、さっき、友達は本気で言っていたと思う。
「他にも言われた事があるの。わたし、圭吾さんのお嫁さんになるのに来たと思われてるんだって。知ってた?」
「ああ知っているよ」
圭吾さんはサラっと認めた。
「知ってたの?!」
「おかげで見合い話が激減した。まあ、まだ懲りずに持って来る人もいるけど」
圭吾さんは面白がるように言った。
「それに志鶴は気づいてないだろうけど、和子ばあやもそのつもりみたいだよ」
ええっ!
「どうしてそうなるの?」
「さあ。君といると僕の機嫌がいいから、すぐに逃げ出す見合い相手よりはマシだと思ってるんじゃないか?」
マシ? ひどっ!
「言われてみると、志鶴が相手だとメリットが多いんだよな」
メリットぉ?
「ちょっ ちょっ ちょっと待って!」
圭吾さんは路肩に車を止めて、わたしを見た。
「嫁に来てくれるのなら待つのはかまわないけど?」
「いや、そうじゃなくてっ!」
「そう? 残念だな。志鶴でいいかと思いはじめてるのに」
「『でいいか』なんて言われて喜ぶ女の子なんていないわよ!」
「可愛いな」圭吾さんは笑って言った。「からかっただけだよ」
そうよね――とホッとしたのもつかの間
「志鶴がいい。真面目に考えておいてくれないか?」
は……はいっ? 考えるって何を?
「前に言っただろ? うちにそのままいればいいって。志鶴は結婚したいみたいだし、僕が相手じゃだめかい?」
ええ――――――っ!
マジでプロポーズ? いや、まだからかわれてるのかも。
「僕は本気だよ」
「で……でも、わたし達いとこ同士だし」
「法律上は問題ない。それに一緒に育ったわけじゃないから、僕は君を従妹と言うより女の子として見ているよ――それとも僕が嫌い?」
もう!
その言い方はずるいでしょ。
言葉に詰まったわたしを見て、圭吾さんはニコッと笑った。
あー いったいどうすりゃいいの わたし!




