枯れ木残らず花が咲く2
「どこへ行くって?」
「だから、隣町のショッピングモールだってば」
わたしは、食い下がる圭吾さんに困っていた。
『土曜日に友達と買い物に行く』って、変じゃないよね?
「行きたいなら連れて行くよ」
「友達と行きたいの」
ついて来られちゃ困るのよ。圭吾さんへのプレゼント買うんだから。
「車、出そうか?」
「人数多いからいい」
「だって、病み上がりじゃないか」
「もう元気だよ。それに悟くんも一緒だから」
悟くんの名前を出した途端に、圭吾さんは黙った。今すぐにでも確認の電話をしそう。
でも、嘘じゃないもんね。
「ちょっと電話して来る」
分かりやすっ!
もう! 友達と出かけるだけなのに、どうしてあんなに大騒ぎするのかな……
わたしって、そんなに挙動不審? いかにも隠し事してます――みたい? まあ、悟くんなら上手く言い訳してくれるわ。
しばらくして戻って来た圭吾さんは、渋い顔で『悟と話した』と、言った。
「ちゃんと面倒を見るからって言われたよ」
わたしは幼児?
「頼むから、悟と一緒にいるんだよ。具合が悪くなったら無理しないで。すぐに迎えに行くから」
ああ、なんだ。わたしの体調を心配してただけなんだ。子供扱いされたと思って、ムッとしたのがバカみたい。
圭吾さんは、この間わたしが熱を出して寝込んだのがよほどショックだったのだろう。ずっと付きっきりで看病してくれたくらいだし。
「気分が悪くなったらすぐ圭吾さんに電話する」
真面目な顔で約束すると、圭吾さんはフッと笑った。
なぁに? 何かおかしい?
「楽しいんだろうな。悟がちょっと羨ましいよ」
「圭吾さんの高校生の頃は? 友達と出かけたりしなかった?」
「まあ、それなりに」
圭吾さんは伏し目がちに言った。
「僕も君くらいの時は楽しかったよ」
「今は? 楽しくないの?」
「今は、君といる時が一番楽しい。だからうるさく口出しするのさ。寂しくてね」
大人でいるって、つまらないのかな?
待ってて。わたしがバレンタインデーにびっくりさせてあげる。
圭吾さんの思いがそんな単純なものじゃないと気付いたのは、その日の深夜のことだった。
わたしは、少し寒くて目が覚めた。
部屋は暗い。寝ぼけ眼で圭吾さんのぬくもりを探した。圭吾さんの腕が、絡めとるようにわたしを抱き寄せた。
あったかい。
大好き。
待っててね。待ってて……あなたを幸せにしてあげたいの。でね、うん……あれ? 圭吾さん、何て言ったっけ……
『僕も君くらいの時は楽しかったよ』
わたしくらいの時って、高校生って事だよね。圭吾さんが高校生の頃って……優月さんと付き合ってた。
ああ……そっかぁ。そうだったんだ。
可哀相な圭吾さん。
でも、今はわたしがいるわ。わたしが側にいてあげる。
優月さんよりわたしの方が、ずっとずっと圭吾さんを好きだもの。
『でも、圭吾さんは?』わたしの中で嫌なわたしが囁く。『あんたは所詮二番手じゃない』
黙ってよ。それでも構わないんだから。
わたしは圭吾さんの腕の中で、モゾモゾと身を寄せた。
「志鶴」
いきなり圭吾さんに呼び掛けられて、ドキッとした。返事をするのをためらっていると、
「眠ってるのか?」
圭吾さんはそう言って、わたしの頭のてっぺんに頬を寄せるようにして、そっと抱きしめた。
あまりに優しい仕草と温もりに胸がいっぱいになる。ママが死んでから、こんなにわたしに近づいた人はいない。
なのに――
「君はいつになったら僕を受け入れてくれる?」
圭吾さんのつぶやくような言葉がわたしの胸を刺した。
わたしと圭吾さんでは、気持ちに差がありすぎる。親父はそう言ってなかった?
わたしは圭吾さんが大好きで、誰よりも近くにいるのに、圭吾さんはそれで十分じゃないの?
愛してる。
なのに、わたしの心はあなたに届いてないの?
気のせいって思うようにしていたけど、本当はわたし気づいてた。
時々、圭吾さんは思いがけない時に寂しそうな顔をする。
愛は、
愛は、どうすれば相手に伝わるの?